はしがき
当研究所は、昨年11月8日から10日までの3日間、東京全日空ホテルにおいて、「国際ルールとコソヴォ紛争の意味するもの」と題する国際会議およびシンポジウムを開催した。
本国際会議及びシンポジウムは、当研究所において実施中の「21世紀の国際社会の課題と展望」をメインテーマとする研究プロジェクトの一環として企画されたものである。
ユーゴスラビア・コソヴォ自治州における紛争は、1999年6月の国連安全保障理事会の決議に基づく平和維持管理部隊の進駐により一つの山を越えた。しかしコソヴォ自治州とユーゴスラビア連邦政府との関係の帰趨やアルバニア系住民とセルビア系住民の民族的な対立など解決困難な問題が残存し、永続的な和平の実現への道はなお遠いと言わざるを得ない。
そうした中にあって、コソヴォ紛争に関して特筆されるべきは、国家主権を基礎として構築されてきた国際関係のあり方や、国連をはじめとした国際機構の役割などに関する従来の国際ルールに、同紛争が新たな前例を付け加え、国際社会にその意義を問いかけた、という点である。すなわち、1]ユーゴスラビアでの「民族浄化」を含む深刻な人権問題に対して、地域同盟であるNATOが人権擁護を掲げて域外の主権国家への軍事介入に踏み切ったこと、2]この介入が、国連安全保障理事会の決議を経たものではなく、結果として同理事会の常任理事国であるロシア・中国の意向を無視した形で行われたこと、3]コゾヴォ紛争の和平プロセスにおいては、最終的に国連安全保障理事会の決議を経たとはいえ、G8が同理事会に代わって事実上大きな役割を果たしたこと、などが国家主権を軸に作り上げられた従来からの国際法の枠組み、そして、国連を中心とする国際機関のあり方、に再検討を迫るものとなったのである。
本プロジェクトは、国内外から有識者を招聘し、コゾヴォ紛争が投げかけた上記諸論点を整理・検討し、国際機関や国際関係の今後のあり方を考える際の一助としたいとの企図の下、開催された。
本会議は当研究所員に加え、米国から戦略国際問題研究所副所長のラルフ・コッサ博士、スタンフォード大学のポール・ステアーズ博士、欧州からはフランスのビクトール・イヴ・ゲバリ ジュネーブ高等国際問題研究所国際政治学教授、イギリスからゾラン・パジック王立国際問題研究所アソシエイト・フェロー、ドイツから国際政治・安全保障研究所のピーターシュミット研究主任、そしてアジア及び日本から、ツアン・ユンリン中国社会科学院アジア太平洋研究所所長、キム・ビョンギ高麗大学教授、国連大学副学長のラメッシュ・タクール教授、岩間陽子政策研究大学院大学助教授、植田隆子国際基督教大学教授の10名の招聘研究者を迎えて行われた。