III. 電話を聴くことで自分の気づきをかさねる
電話相談ボランティアの活動をする女性
社会のひずみを「聴く」
民間の自殺予防、危機介入に関わる電話相談のボランティアに16年間携わっています。さまざまな電話相談が社会に増えつつありますが、夜間に受け付ける電話相談は今でも限られています。私自身は、世の中が寝静まった時間帯に一人眠れず誰かと話したいと思う人の相手ができればと思い、近年は夜間の電話の担当をしています。電話相談をとおして社会の「今」が見え、その社会の問題に関わることができると考えています。
私たちの活動は、時代とともに生じる社会のひずみに生きる人びとの話を聴くことです。社会の問題を先取りしているにもかかわらず、社会に発信していく言葉と手段をもちえないことにジレンマを感じつつ、そのジレンマがエネルギーの素にもなっています。
出会いのなかで気づきをかさねる
これほど長く続けてきた理由は、電話を聴くことで自分の内面に起こることを見つめられるからです。その時どきに課題を見つけ、さまざまな出会いのなかで自分の気づきをかさねてきたことは大きな学びになっています。
ボランティアの役割は「聴くこと」と教えられました。人の話を聴くことができるためには、自分自身を知ることが必要です。コミュニケーションが決して上手ではない自分や、自分自身のかたくなさや小ささなどに気づきつつ、その気づきが一方で自分を解放することにもなりました。その時どきの「今の自分」が聴くこと、その作業を続けることが、自分を成長させてくれていると感じています。
一方で、「聴く」だけということに無力感を感じたり、何も具体的な行動ができないシステムに疑問をもったり、組織のあり方に反発を抱いたりと、迷いながら続けてきた面もあります。
最近ようやく役割としての「聴くこと」に納得できるようになってきました。しかし、電話をかけてきた人たちの追跡調査をするわけではないので、この電話相談が社会にとって本当に必要かどうか、現在も私自身の確かな答えは出ていません。