III. 妻に「逃げるな」と言われましてね
障害のある息子をもつ男性
障害のある子どもと向き合う
自分の長男に障害があるとわかっても、最初はどうしたらいいのかまったくわかりませんでした。会社勤めをしていて、仕事も忙しく向き合うどころではありませんでした。
あるとき、妻に「逃げるな」と言われました。その頃、下の子どもはおろおろしているし、妻はパニックになっているし、家庭が崩壊しかけていました。父親としてそのときどうしたらいいのかが問われました。一家心中まで考えてはじめて、逃げてはダメだと思ったのです。
私は自分に踏ん切りをつけるために、まず会社の上司に、障害のある子どもがいることを伝え、どういう状態なのかを説明しました。その頃は、家族に障害のある人がいても隠している人が多かったようです。
会社で昇進するコースからはずしてもらい、プレッシャーのかかる仕事からもはずれて、ようやく家族に向き合うことができました。
そうすることで、自分で後戻りできないようにもっていきました。この選択は、親としては仕方ないことだったと思っていますが、働いている者としてプライドが傷つくこともあります。たとえば、部下が横並びになったりすると、俺だってもうちょっと身軽だったらと、思わないといったら嘘になります。
家族と向き合いはじめてからも、障害のある子どもに対してどう関わればいいのか、まったくわかりませんでした。仕事は成果がはっきり見えるのですが、子どもはこちらの思うようにはいきません。
同僚の言葉に励まされ
会社では良い同僚にめぐまれました。障害者関係の活動が忙しく、会社で仕事をしているときも半分は活動のための作業をしていた時期がありました。会社に来るファックスはほとんど私の個人的なものというようなときもありました。