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結論

振動物体と振動水柱から構成されるシステムと波との相互作用に関して現象学的な線形理論を短く記述した。波力の最大吸収量を得る制限なしの最適値に関する研究では、Evans[2]の単純な式を拡張して(式(19)から式(23)を参照)、放射減衰行列が正則かつ実数であるという仮定を不要にした。この行列(D)は、対象としたシステムについての複素エルミート行列である。これが正則でない行列となる場合には、波力の最大吸収量は、最適振動が1つに限られない場合でも一義には決まらないことが示された。

さらに、Evansの振動体から構成されるシステムに関するグローバル制限の分析[4]を、振動水柱を含むシステムに一般化した。また、過去の研究[4]で使われていた恒等行列を使う代わりに、制限式(26)の内部に複素エルミート行列Tを使用した。

この理論を、内部に振動水柱を含み上下動する軸対称の物体に適用した。このシステムでは、放射減衰行列は正則ではない。著者の知る限りでは、非制限の最適値分析法(式(35)から式(38))は、ここに示した方法が初めてである。

この軸対称の例では、特殊な制限行列Tを提示し、制限つきの最適値の分析にも使用した。この制限行列は、選択可能な複素係数αを含む。制限つきの最適振動とそれによって得られる波力の最大吸収量は、|α|<1の場合について、行列Tが正の定符号という条件下で導かれる。ただし、この行列は|α|=1の場合には正則でなくなる。行列TとDがいずれも正則でない場合、解は、行列Tの固有ベクトルを固有値として持つような非制限最適値振幅ベクトルとして得られることが分かった。したがって、このような場合には、非制限の場合とは異なり、選択された制限は実際には振幅を減らしたり波力を吸収する機能はない。ただし、放射減衰行列Dが正則で、一義に決まる最適振動ベクトルがTのゼロ固有値に近過ぎない場合に、制限行列Tが正則でないならば、振幅の減少が起きる可能性はあると考えられる。例えば、振動水柱を含み浮遊する「後方曲げ形ダクトブイ」(BBDB)[10]では、放射減衰行列は正則である。

最後に、軸対称の事例では、別の振幅制限(47)を考慮した。この場合は、上下動する振動物体と振動水柱2つのうち1つだけがアクティブな場合、入射波によって励起される度合いの大きい側がどちらであるかによって異なる最適値が求められた。

 

参考文献

[1] Budal, K. (1977) Theory of absorption of wave power by a system of interesting bodies. Journal of Ship Research, Volume 21, pp. 248-253.

[2] Evans, D. V. (1980) Some analytic results for two and three dimensional wave-energy absorbers. Power from Sea Waves, edited by B. Count, (Academic Press), pp. 213-249

 

 

 

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