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図8 1980年8月の100m層での水温(点線:℃)・塩(実線:psu)の水平分布(左図)。この図には岸沿いに顕著な津軽暖流、海域の南東部には明確な黒潮水、海域の北東部に明確な親潮水の存在が見られる。そのそれぞれの水塊の中にある3つの測点、TD3(39°32'N, 142°19'E),TS8(38°56'N, 143°14'E),TD7(39°32'N, 143°11'E)における水型の鉛直分布をTSダイアグラムの上に示したのが右図である。これらの測点の位置は、左図に示してある。

 

永田ら(2000)は、ほとんど変質を受けていない黒潮水の侵入現象について調べ、純粋な黒潮水の浸入は大暖水塊の沿岸接近のような大規模現象に伴って起こり、構造も深いことを指摘している。ここで見ているのは、考慮している海域の南東端で起こりやすい、それほど大規模でない黒潮系水の侵入現象であるが、この場合も相当に深い構造を有していると言える。ただし、その深い部分は親潮水との混合によって変質を受けていると示唆される。

親潮系水の中にあったTD7で取られた水型は、50〜150m層ではO領域に、それ以深ではDの領域にある。この三陸沿岸域での中層水、塩分極小層の深さは浅く、150m付近に現れている。広域を扱った楊・永田(1990)の解析では、50〜150m層の部分に対応する水を黒潮・親潮の混合水として扱っており、150〜300m層の部分については、親潮水と扱っている。

図8は夏季の特徴的な3つの水塊の性質を示したものであるが、先に議論してきた月平均場の特性とよく整合している。今後はさらに季節変化や、親潮水の侵入、黒潮水の影響等の特徴的な現象について、ケーススタディを続けていきたいと考えている。

 

参考文献

[1] Fujimura. M. and Y. Nagata (1992): Mixing process in the Mixed Water and Kuroshio Extension Regions and modification of the Intermediate Kuroshio Water. Oceanogr. Mag., 42, 1-20.

[2] Hanawa. K. and H. Mitsudera (1987): Variation of water system distribution in the Sanriku coastal area. J. Oceanogr. Soc. Japan, 42, 435-446.

[3] 永田豊・鍵本崇・轡田邦夫・高杉知・石田享一(1993):北太平洋中層水の起源としての高塩の津軽暖流水。月刊海洋、25, 128-434.

[4] 永田豊・小熊幸子・鈴木亨・渡辺秀俊・山口初代・高杉知(2000):三陸沿岸海域への黒潮系水の侵入について。月刊海洋、32, 800-807.

[5] 大谷清隆(1981):噴火湾の物理環境。沿岸海洋研究ノート、19, 68-80.

[6] 楊城塞・永田豊(1990):日本近海における中層水の分布特性。海と空、66, 1-13.

 

 

 

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