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海面のある格子目の総数をnとする。i番目の格子目の水深をDi、そこでの海面水位をZiと、(4)式を差分化すれば、右隣、左隣、上隣、下隣の格子目の海面水位Zとの線形の関係式が得られる。陸側境界は鏡のような反射条件を与え、湾口境界ではZを強制的にゼロとおけば、(4)式の関係は

λZ=AZ (5)

という、正方行列の固有方程式で書き表すことができる。ここで、

λ=-ω2/g (6)

であり、Ziの縦1列の行列式でn個の要素からなる。

正行列Aは(4)式の関係を差分化したn×nの正方行列である。実際に計算してみると、Aは対称な対角行列であって、かつ、対角線からもとの格子の横幅bより遠いところの要素がすべてゼロである。

このような正方行列は「バンド行列」と呼ばれ、大きな計算機センターでは、この種のバンド行列の固有値λk(1>k>n)と、そのおのおのに対応する固有ベクトルZkを求めるサブルーチンは用意されているはずである。

内湾の固有値問題の解法は以上の通りあるが、実際に計算するときには、格子目の大きさを少しでも細かくすると計算機の起動時間が急増するということに留意すべきである。たとえば、湾の海図を20×20の格子(碁盤程度の解像力)で覆っても、格子目の数は400、その半分を海域の格子目(有効格子目)とすると、有効格子目の数は200程度。このときには対角対称な正方行列Aのサイズは200×200=4万の要素からなることになる。その固有値と固有ベクトルを求めるには実際の計算時間が例えば30分とか1時間とか相当に長くなる。

数学的には固有モードは有効格子目の数だけ存在するが、実際に津波によって誘起される主要な振動は基本振動である。このほか2、3の振動モードが観測されることもあるが、ほとんどの場合無視しうるものである。この基本振動の「腹」すなわち最大振幅を示す場所で、常に津波の浸水高さが最大となるのである。

いま、賀田湾について基本固有振動、第2固有振動のパターンを示すと、図16が得られる。歴代の津波のたびごとに湾内での最大浸水高さを記録した西枝湾の賀田がちょうど基本振動の最大の腹に当たっていることが読みとれる。

 

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図16 マトリックス固有値法(Loomis:1975)で求めた賀田湾の固有振動の基本振動(上図)と第2モードの振動パターン。基本振動は賀田で最大振幅となっていることに注意。

 

 

 

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