日本財団 図書館


船も専用船に替わるような時代になると、漕具も当然日常使用のものから競漕専用のものに替わっていった。神事儀礼の一環からスポーツへの転換である。こうなれば軽量化にますます拍車がかかる。その例が顕著にみられるのが沖縄であろう。

●漕ぎ方

沖縄は長崎のペーロン同様パドル(小櫂)を使用しているが、型・漕ぎ方とも長崎と異なっていた。型が異なれば漕ぎ方も異なるのは当然である。ところが近年、漕ぎ方が似かよってきた。漕具は異なるが沖縄が長崎のペーロンの漕ぎ方に近づいてきている。

長崎市は周知のように早くからペーロンの国際選手権大会が開催され、合理的な船・漕ぎ方が追究されてきた。そのためその大会を目指して周辺地域はほぼその大会のルールに従っている。その結果、現在では長崎市周辺の各地区の大会は市の国際大会の予選になっており、船の大きさ、乗員数、櫂の大きさもほぼ同一規格のものになっている。同国際大会で優秀なチームは海外の国際大会にも出場・派遣されるほどの実力をもっている。

このような状況のなかで国際級レベルの技術を持った長崎のペーロンチームが交流のため沖縄にやってきた。最近まで、沖縄ではハーリー競漕は宗教的な意味を持って本島や先島諸島の全域で年中行事の一つとしておこなわれてきた。しかも各地区ごとにおこなわれ、全島的な交流はほとんどなかった。ところが、この伝統行事が近年観光と結びつき、航空会社や大型ホテルの支援によって地域を越えたハーリー競漕大会として開催されるようになった。スポーツとしてである。そこへ長崎のチームが参加、圧勝してしまった。それによって事態が一変してしまった。つまり、これまでの沖縄伝統のプライドを傷つけられたのである。やがて沖縄のハーリーが競争をより意識するようになり、より速くするための船の工夫や櫂の型を見直しはじめた。そして長崎の櫂を見習って水掻きの広い櫂が普及しはじめた。同時に当然漕ぎ方も変わってくる。長崎同様、漕ぐ回数を多くするピッチ漕が主流になり、沖縄にみられる水を掻いた後、櫂を後ろ上方へ掻き上げる華麗な漕法が減少していった。つまり伝統的な漕ぎ方が消えていったのである。今日、それが残存しているのは本島北部の塩屋だけであろう。

しかし、現在、伝統的な櫂が消失することが問題になり、石垣の新聞(「『エーク』が変わった」八重山毎日新聞 1999.6.12)や本島中部で競争(スポーツ)か伝統(宗教)かで小さな波紋を投げかけている。石垣では伝統を守る方に回帰すると聞いた。はたしてそれでおさまるかどうか。現在の沖縄の櫂は競漕には適していないのは誰の目にも明らかであろう。勝つためには船・櫂の軽量化をはかり、合理的な漕ぎ方を目指すのは当然である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION