船体傾斜時においては、通路の滞留も避難完了時間も大きくなるが滞留のネックとなる部分は同じである。滞留のネックとなる部分が避難に大きな影響を与えることが明確であり船体傾斜時における滞留の度合いを解析することは重要である。
5 内航旅客船用避難経路評価法
最終年度の報告として、内航旅客船用避難経路評価方法の草案を作成した。その詳細はANNEXに添付した。評価の目的、避難シナリオ、シミュレーション等による評価指標、パラメータなどについて取りまとめている。しかし、これまでの議論で評価方法などについて具体的な多くの知見が得られたが、具体的なシナリオや評価指標の数値については今後の規則として施行する際にさらに検討するものとして設定していない。また奇妙な避難経路を設定した方が、シミュレーション上は避難しやすい、などの矛盾が必ずしもないとは言い切れない。これらは今後の検討課題である。
6 結言
3年間の研究の成果を取りまとめたものである。
避難経路評価方法としてはシミュレーションによらざるを得ないとして、群体モデル、個体モデルの手法を中心に計算手法を整理検討した。その結果、何れも確かな手法と評価できるが、群体モデルは群行動の表現主体であり、詳細な個人特性を考慮した解析は不可能であり、一方の個体モデルは個人的な特性を含めた多様な解析が可能であるが、煩雑でやや困難な面がある。IMOのガイドラインと建築防災計画指針は代表ノード間解析法と呼び、避難経路を設定しノード間ごとの人の移動を計算していく。移動速度などのパラメータを設定すれば簡便な計算ですむ。本WGではこれら計算手法について検討を重ね、実船での計算を行いその数値的な比較も行った。IMOの動向にも注意してきた。また、船体傾斜時の階段での歩行速度などの計測実験も実施し、オリジナルなデータが入手できた。手法論的な検討は終了したと考えられる。具体的な評価シナリオとその評価指標についてはその方向と考えるべきポイントを草案のかたちで示すにとどめている。しかしながら、今後実際に規制のありようを検討するに際しては、極めて有益な議論の出発点になると考えている。
本WGでの検討は、基礎的な研究として既に実施されていた船舶艤装品研究所と船舶技術研究所のプログラムがベースとなり、それを比較検討することでさらに技術施策的な研究内容にまで引き上げ、研究的にも実用性を考慮してまとまりを持ったものとすることができた。今後この結果が具体的な設計に応用されることを切に期待している。
ご支援賜った関係各位に深甚なる敬意と謝意を表する。