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舶用機関の開発環境は他の交通機械や原動機(ガスタービン、自動車用エンジンなど)と著しく異なるが、関係者の認識は量産ベースで開発された自動車エンジン等との違いを勘違いしている面が多々ある。製品規格とはいえない燃料規格ISO 8217規定のMFOを使用しているためである。

 

1.3 2サイクルDEの製造能力・品質

燃料油の粗悪化・低質化にも関わらず、舶用DE機関は着実に高出力化と軽量化の歴史を辿っている。燃焼室回り設計や軸受設計等を除いて信頼性は実際には高くなっている。

日本の主機関メーカーは、設計品質は別にして、製造品質では問題が皆無とはいえなかったが品質管理部門の活動もあり、多くの主要日本船社は韓国メーカーに発注するよりも概ね信頼性があると感じている。過去直接間接指導育成した舶用工業の諸メーカーが健在であったことも一因である。

A船社の例でも、特に口径700mm超える2サイクル主機関はどのライセンサー機関も稼動損につながりかねない製造品質上の重大な問題が過去種々発生し、細部にわたる品質検証会等の合同対策会議により製造欠陥のミニマイズを含め製造品質の改善が図られ着実な成果が現れている。設計品質はライセンサーを巻き込んだ検討会が有効である。韓国の機関メーカーに発注する場合はトラブル事象に対する認識差、見解のギャップの解消は言語の問題もあり容易ではないことを覚悟する必要がある。ライセンサーと直接対話することも不可欠である。

ISO 9001 & 9002の時代に入り、運航船社の営業部門は収益に直接影響する船舶の総合品質、不稼動に直結する主機関、軸系、発電プラントの信頼性やトラブル事象に以前に増して敏感になっている。VLCCなどでは不稼動は直ぐ用船社に事故の概要、損傷原因、修理期間(費用)等が遅滞なく通知され、不稼動が長期にわたる場合は代船手配を行うので言い訳は通用しない。複数の船社を起用している石油会社の運航部門は各船のパフォーマンスを速やかに把握している事情がある。

タービンプラントのLNG船はマクロに見れば長期間運航が安定している。LNGの季節需給調整は停船(ドック係船)によって行われている。ある時期の運航管理が十分でなかったために、貨物部では塩分が赤道部に侵入し円周上にクラックが入った事象や、老朽化した初代モス型LNG船で軒並み発生した甲板上のインシュレーション施行のSUS304貨物管(直間)に塩素イオン侵入によるクラックが進行し、1〜2ヶ月の停船を余儀なくされた事象も起きているが機関プラント上の間題ではない。

長期の改修を要するディーゼル主機関の重大事象はそれほど多くはない。散見される主軸受焼損・ジャーナル損傷、韓国HSD(旧韓国重工業)製等で経験したVLCCに搭載されたRTA 84T & RTA 84 T-B機関で発生した鋳造欠陥による主軸受ガーダーのハウジング部クラック事故(11隻、修理に約2ヶ月要す)、稀に発生している燃料系漏洩による機関室火災事故、時々の過給機損傷、ライナー損傷等が挙げられる。機械につきもののwear & tearは不可避であるが、低質重油を使用している割には発生頻度は概して少ないとの見方もできる。燃焼室回りのピストンリング&シリンダーライナー摺動部の凝着磨耗は高出力化した内燃機関ではある程度避けられない。

スルザー機関RTA 84 Cでは就航当初に徹底的にA船主・DU・ヤード(IHI)間でFTAを実施し、ライナー温度計が装備されていたため、後続機での陸上運転での検証などで徹底的な発生メカニズムの把握と対策を検証した歴史がある。2000年末現在RTA 84 C型機関の発注は200台弱に伸長している。

大口径新型機関では、海上試運転にライナー摺動部の健全性は検証すべき必須事項である。就航後に問題を残すと解決には多大な時間を要するからである。RTA 84 T、RTA 96 Cでは設計段階より検証・就航後の一部設計変更を行ってきている。三菱UEC 75 LS II機関では1〜2号機で同様の問題が発生し、速やかな対策がなされトラブルはミニマイズされた。UEC 85 LS II型機関は同様の設計コンセプトを踏襲している。

 

 

 

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