とくに、従来から国際航路における最大の条件として、船舶の大型化の障壁となっていたパナマ運河の閘門の寸法による最大通航船型の制限(船幅32.3m)を考慮しなくても良い輸送ルートが具体化された結果、ポストパナマックス船型の大型化が加速されたのである。
さらに、米国のランドブリッジ利用による西岸から東部への鉄道輸送量の増大やアジアから米国への物流の質と量そして流れの変化などが理由となって、パナマ運河を経由しないコンテナ貨物の輸送航路も開発された。その結果、パナマ運河通航のコンテナ船の最大船型と言われていた4,600TEU型(船幅32.3m)からパナマ運河を通過しなくても良いSuper Post Panamax型の6,400TEU型(船幅42.8m)が1996年に出現したのである。
当初、マースク社から合計6隻発注されたこの大型コンテナ船は1996年に竣工するまで5,000TEU型といわれ、最大積載量は秘密であったが竣工引渡し後に6,400TEUとして発表され、世界のコンテナ船業界に大きな驚きと改革の端緒となった。そして、この第1船が就航したのにともない、多くの船社は、我も我もと、追従し一挙に今までの船型大型化の障壁を崩し、定期船業界は急激な大型化への時代に突入したのである。
そして、2000年の現在、定期船運航における海上運賃の修復は、運航の合理化やコンテナの海上荷動き量の増大により、促進され、主要航路の市況は好転している。
しかし、今後も進展するであろう船社の大型船の協同運航は、保有船腹量の過剰を産み出すため、不経済船の排除を促し、また、新造大型船の著しい就航量の増加は従来の中小型船を陳腐化させて行くことにもなるだろう。すなわち、大型船の出現は船型の革新を進め、輸送効率を高める反面、在来船の他航路への就航を促し、総体的には、保有船腹量の構造調整を必要とする状態を生み出すものと考えられる。
2. 船舶の大型化の目的と過去の推移
1950年代から、1970年代にかけて世界の海運業界では、運航船舶の大型化が、特にタンカーやバルカー部門で促進されたが、この船型大型化は、さらに1990年代を通じて、コンテナ船や客船に関しても促進され、2000年現在さらに進展している。では、何故、船舶の大型化が行なわれるのであろうか。そこで、その利点や欠点そして主な理由等について次ぎに述べる。
(1) スケール・メリットの効果
タンカー(原油タンカー)、バルカー(撒積船)そして、コンテナ船などの様に、同一形態の貨物を一度に、多量輸送する船舶にとっては、船型が、大型化すればする程、輸送貨物の単位重量当たりの輸送コストは減少する。すなわち、船型の大型化に比例する程、船員費、燃料費などが大幅に増加しないので、建造船価の減価償却費の増加を考慮しても、大型化による貨物1トン当たりの輸送費は、割安となるスケール・メリットが存在する。したがって、より大型化した船の方が、より安い海上運賃を提示できるので、大型船を運航する船社の競争力が強化されるのである。
(2) 需要と供始のバランス
大型船は、船の長さや吃水などの点で、出入港する港湾設備や水深などに特別な条件を必要とする為、港湾条件により入港できない所もある。したがって、大型化を採用する第一の条件は、輸送対象貨物の量が確保されることであり、第二の条件として、その航路の港湾や水深条件に適応した船型でなくてはならない、さらに第三として、荷主や船社としての大型船の運航採算性である。そして、最後の第四の条件は、その大型船を建造できる技術、並びに納期、そして船価などの点から、十分対応できる設備能力を持つ造船所が存在することなどである。とくにこれらの前提条件である重要な問題は、就航航路において、十分な輸送対象貨物が所定期間内に恒常的に確保されるのかということである。
(3) 最適船型の存在
スケール・メリットを目的とする船舶の大型化には、航路によって、運航採算上の建造船価や燃料費を含めた輸送費用、そして関連経費などが増加し、ある船型や航海速力以上になると輸送コストが大幅に増加する等の理由により経済性には、限界があり、特定船型での最適船型が存在する。