地中埋設パイプラインのように長大な埋設構造物は土壌の電気伝導度が空間的に変化する複雑な地盤にまたがることが多い。電気伝導度が、断層のある場合のように空間的に急激に変化する場合には、解析領域をいくつかの小領域に分割して、各小分割領域内で電気伝導度が一定と仮定して境界要素解析する領域分割法が有効と考えられる。しかし、電気伝導度が空間的にゆるやかに変化する場合にこの方法を適用すると、各小分割領域の境界で不連続な電流密度分布を持つ、不自然な解が得られる。
このような場合に対するカソード防食最適化手法が提案されている。10)この方法では、土壌の占める全領域をいくつかの小領域に分割し、各小領域中の電気伝導度の空間的変化を直線で近似する。したがって、支配方程式はPoisson方程式とは異なるので、このような腐食場に対して新たに導出した基本解を用いる。また、構造物の分極特性が空間的に連続的に変化するようにモデル化して、各小領域を解析し連結する。さらに、長大な構造物では構造物自身の電気抵抗も無視できない場合があるので、これも考慮されている。
以上の研究では、電極を溶液の中に置配する場合について検討がなされているが、実際には次節で述べる船舶のように、電極を構造物やプラント部材の壁面に直接配置しなければならない場合も少なくない。この場合の最適化問題は支配方程式はラプラス方程式となり、境界条件が設計変数となる。通常の境界要素法では、繰返し計算の過程で電極位置を変更する度にメッシュ分割を行わなければならない。そこで、境界積分方程式の右辺を適当な項を加減して変形することにより、これを避ける方法が提案されている。
5.4 カソード防食の最適化例
大型の船舶においては、船体の表面に多くの電極を設置し、これらに電流を供給することによりカソード防食が行われる。また、船体表面の数ケ所にセンサーを配置し、電位の測定が行なわれる。航海時には、(1)各センサーによる電位の測定値から船舶外板の電位を固定し、(2)各電極に供給する最適な電流を定める必要がある。また、航海中に船体表面の防食ペイントが局部的に損傷した場合には、(3)その位置を各センサーの測定値の変化から推定し、ペイント欠陥が存在する状態における最適電流を定める必要が生じる。このように航海時には、3つの最適化または同定(逆解析)問題を解かなければならない。ただし、航海時には電極位置の最適化の必要はない。
上記(1)の逆問題解析の解析例については、すでに図9に示したが、図の白い部分が防食条件が満足されていない箇所に対応している。

6. 結言
境界要素法による腐食防食問題の解析について、基本的な考え方と最近の研究を紹介した。今後は、この方法をさらに実用に役立つようにするために、より複雑な機械・構造物への適用、分極曲線や電気伝導度のばらつきを考慮に入れた確率的取り扱いなどの研究が活発になると思われる。また、この方法はメッキなどの表面処理へ応用できる可能性があるので、この方面への研究も盛んになると期待される。
参考文献
1) 例えば、M.G.Fontana and N.D.Greene:"Corrosion Engineering", McGraw Hill, Tokyo, (1978)。
2) 青木繁、天谷賢治、宮坂松甫:“境界要素法による腐食防食問題の解析”、裳華房、(1998)。