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しかし、折損は補修していない補強中央部の船首側の隣接部(SS6.9)で生じていたと考えられる。荒れた海象では波浪モーメントのピークは比較的静かな海象と比べて船首側に移動することに注意しなければならない。また、折損は、サギングモーメントによる上甲板部の座屈から始まり、その直後に船底部のロンジの溶接不良部から船底板が切断し、上甲板部への圧縮応力は増し、上甲板部の座屈が進行した。その後の繰り返しのモーメントにより、断面が切断したと考えられる。なお、推定衰耗は上甲板の舷側タンク部で7.5mm(34%)、中央タンク部で4.0mm(18%)、船底外板では6.0mm(27%)になっており、崩壊強度は建造時の半分になっていた。なお、ロンジの一部は甲板から離脱していて、曲げ強度に対しては寄与していなかったために、甲板の座屈強度は低下していた。

 

2.2 強度評価の要求案

日本政府がIMOに対して提案したA744(18)の修正案の概要は以下の通りである。

老朽油タンカーの折損油流出事故を防止するため、板厚衰耗が著しく進行している極く限られた老朽タンカーに対して、縦強度の評価を行うことを要求する。

日本は、ナホトカ号の事故を踏まえて、衰耗に関しての注意を促すために、局部構造部材の衰耗限度をsurvey report fileに記述することをIMOに提案し、A.744(18)が改正され、1999年7月1日から実施されている。日本はさらに、個々の部材が衰耗限度内に収まっていたとしても、船体に全体的衰耗が進んでいる場合には、船舶縦強度が不足して折損することがあり得るとし、上記の縦強度評価を行うことの要求を提案している。

さて強度評価を要求されるのは、老朽油タンカーとなっているが、具体的に対象とされる船は以下のすべての条件を満たす油タンカーとなる。

a. 船長は130m以上であること。

b. 船齢10年を超えていること。

c. フランジ断面積の衰耗による減少が、新造時と比べ15%を超えていること。

ここで、フランジ断面積とは、甲板および甲板付ロンジ、あるいは船底板および船底板付ロンジの断面積を意味する。

 

2.3 縦強度評価の3条件の裏付け

ここでは、以上の3条件を満たすような老朽油タンカーに対しては、なぜ強度評価が必要であるかについて述べる。逆に、以上の限定された老朽油タンカーを強度評価しさえすれば、殆どの折損事故は防止出来るのかについて述べる。

 

2.3.1 縦崩壊強度と衰耗の関係(例)

船舶が就航している標準期間20年間に遭遇する最大曲げモーメントに対して船体の強度はどれほど余裕があるのであろうか? 船体には、静水中曲げモーメントと波浪曲げモーメントの和が作用しているが、その縦曲げモーメントが縦崩壊強度を超えると船体は折損する。縦曲げモーメントが大きくなると、船体の甲板あるいは船底構造は、縦曲げによる大きな圧縮や引張りを受け、その局部強度を超えると部分的に座屈あるいは切断が生じ、さらに損傷が進行して全体的な断面の折損にいたる。図1に有限要素法による解析例を示しているが、この例は甲板部が座屈している。縦曲げモーメントは、船体の曲げ変形が生じても、それによって減少することがないが、強度は崩壊強度をピークとして、曲げ変形が進むと減少するので、曲げモーメントが崩壊強度に達すると、一気に船体は折損してしまう。したがって、船体の崩壊強度を作用する縦曲げモーメントよりも十分余裕を持って大きく設計することは正しい。

 

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図1 SuezmaxのSaggingによる崩壊(FEM解析)

 

 

 

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