3-4 官民の協力体制
EPAは、大気浄化に関する連邦、州、地域のいかなる法案もその法案から恩恵を受ける地域住民の理解と支持がなければ成功しないと考えており、CAAの発効以来これは基本的態度として一貫している。
大気浄化関連法案には、前述の南カリフォルニア沿岸に対するオゾン対策のように、極めて地域性の高いものから本報告書の主題である舶用エンジンからの排ガス規制法のように、連邦法として統一しないと意味がないものまで千差万別であり、連邦法、州法、地域法の交通整理とこれを取り仕切るEPAの方針が重要となる。
CAAは、カリフォルニア州の排ガス基準及び1966年以前に設定された州基準を除いて、各州及び港湾等の行政単位がCAAの定める基準と大幅に異なる排ガス基準を定めることを禁止している(CAA 233, 42USC 7543, 42USC 7573)。
カリフォルニア州独自の排ガス基準の例としては、前述の産業用大型SIエンジンの短期的規制値で、EPAがCARBの規制値をそのまま採用する等枚挙にいとまがないが、1998年12月CARBはOB及びPWCからの独自の排ガス基準を発表した。この基準では、2001モデル年以降カリフォルニア州で販売されるOB及びPWCはCARB基準に従うことを定めている。CARB2001年基準は、EPA基準が2006年に達成を求めている基準と同じであるが、例えばレークタホー湖において2001年10月以降はEPA2006年基準あるいはCARB2001年基準を達成していないボートの乗入れは一切禁止される等、適用時期をEPAより早めている。
官民の協力体制という視点から、南カリフォルニア沿岸のオゾン対策を細かく見てみると、EPAの方針と立場が良く理解できる。
CAAの1977年の改正で、全米の全ての地域にオゾン及びCOに関する連邦大気基準をクリアーする計画案を1982年までにEPAに提出することが義務づけられた。ロスアンジェルス、ベンチュラ、サクラメント地域から提出された計画案は、とてもこの期限内に基準をクリアーすることは不可能であることを述べた案であった。EPAは、これらの案に対し“不認可”という態度をとらず、これら地域の法案作成者と協力して案を改正することとした。これに対し、上記各地域は裁判所に働きかけ、EPAが連邦実施規則(Federal Implementation Plan: FIP)を公布するよう要求した。EPAは、裁判所決定に従い、COとオゾンに関する南カリフォルニアFIP公布の準備をした。
上記にもかかわらず、1990年11月CAAAで議会が州に直接上記に関する包括的案の作成権限を与え、その実施期限を定めたので、EPAは最早FIPを出す義務がなくなったとの態度を取ったが、再び裁判に持ち込まれ、その結果EPAは1994年2月22日までにFIPを出すことを了承した。