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1. はじめに

 

20世紀最後の4半世紀に至り、人々は科学技術の進歩が必ずしも人類に幸福をもたらすものではなく困った結果をもたらす場合もあることに気付き、科学技術の発展方向を大幅に修正する必要にせまられた。人類が努力して開発し困った結果をもたらす最たるものは軍事技術であるが、冷戦構造の時代も終り核戦争の脅威も次第に遠のいており困る程度は若干減っている。

他の困った結果で根が深いのは、環境問題である。環境問題の放置は人類の滅亡につながることが次第に認識され、環境問題は世界各国の関心の的となっている。

しかし、アダム・スミスの自由競争原理に裏打ちされ、効率と性能向上を唯一の価値基準として進めてきた科学技術の開発方向を転換することは容易なことではなかった。

 

米国において環境問題を経済原理の中に導入する転機となったのは、1969年の国家環境基本法(National Environmental Policy Act of 1969: NEPA)である。NEPAは、経済原理の中に環境問題に関する国家の立法による干渉を認めた。NEPA成立の翌年、早くも本報告書のテーマの基本法である1970年の大気清浄法(Clean Air Act of 1970: CAA)が成立している。

 

米国の環境汚染に対する関心は一般に高いといえるが、船舶による海洋汚染、大気汚染についていえば、海洋汚染特に油濁防止に関する関心が圧倒的に高く、大気汚染については自動車や工場の排気の陰に隠れていた感がある。しかし、南カリフォルニア沿岸地域やアラスカ・クルーズ航路のごとく、地域的に舶用エンジンからの排ガスが環境及び住民の健康に重大な影響を及ぼしていることが判明するに及び、舶用エンジンからの大気汚染も一般の関心を引くようになった。

さらに、現在米国は大量輸送機関としてのフェリーボート・ブームであるが、航路認可の条件として舶用エンジンの排ガス清浄度が高い位置を占めている。

 

船舶による海洋汚染を防止するための国際条約の基本となっているのは、1973年のいわゆるMARPOL条約に所要の修正を施して1978年に採択されたMARPOL 73/78条約である。この条約は本体に加え、規制対象別に6つの附属書によって構成されている。そのうち、本報告書に関係するのは附属書VI“船舶からの大気汚染の防止”であり1997年9月加盟国間の合意に至ったものの、未だ発効条件を満たせず、発効するに至っていない。

附属書VIは、ディーゼルエンジンからのSOx、NOx等を規制している。米国環境庁(Environmental Protection Agency: EPA)も遅まきながら1999年12月29日、舶用ディーゼルエンジンからの排ガス規制の最終規則を発表したが、対象は国内航路船のみであり国際航路に従事する船舶に対する規則は将来公布するとして、当面はMARPOL 73/78附属書VIに従うことを推奨している。

 

 

 

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