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海洋生物の保護は、比較的人の目に付きやすい事項であり、海軍とUSCGは常に矢面に立たされてきた。現状では、クジラでさえ聴覚能力や聴覚探知メカニズムは充分分かっていない。海洋生物の保護はこれ等生物を見つけ、追跡し、移動を予測する技術の開発から始めなければならない状況である。

 

海洋生物保護の故に通常の業務を妨げられている海軍は、その被害を最小にするために、海洋生物情報システム(Living Marine Resources Information System)を開発中である。このシステムが完成すると、正確な海洋生物の情報、すなわち生物の出現、分布、移動ルート等を把握することが可能となり、このデータを基に通常の試験業務のスケジュールを策定することによって環境団体との軋轢を和らげることができるのではないかと期待されている。

 

1990年代に米国各地で世間の耳目を集めた船舶関連の環境問題は、大部分がNationalあるいはRegionalに分類される。Nationalの代表は何といっても油濁である。エクソン・バルデイーズ号以降不思議と件数は減っているが、油濁事故は西岸、ガルフ、東岸、内陸水面で同じように発生している。南カリフォルニア沿岸地区で船舶からの排ガスが問題となり、カリブ海でクルーズ船からの海洋汚染が問題となったことは本文中で述べたが、従来これらのRegionalな問題に向けられてきた環境団体の矛先は、最近アラスカ地区のクルーズ船、サンフランシスコ地区のフェリーボートに向けられ、Nationalな問題となってきている。環境団体は、EPAやUSCGの環境立法あるいは環境行政のわきの甘さをついているが、環境問題を法律で取り締まることの難しさを見せつけられる思いである。

 

南カリフォルニア沿岸地域で一般船舶からの排ガスを規制しない限り、EPAの大気基準を達成し得ないことが判明し大きな問題となったのはむしろ1990年代前半であり、クルーズ船やフェリーボートが増えたのは1990年代後半である。

この2-3年、アラスカを訪れるクルーズ船は急速に増えている。2000年夏にアラスカに入った大型クルーズ船は22隻で、それらクルーズ船が環境に与える影響、すなわちエンジンからの排ガスによる大気汚染、廃棄物による海洋汚染、鮭等の魚類保護、アラスカ地区における油濁対応の不備等の問題が環境団体に指摘され、クルーズ船協会とアラスカ州政府当局はEPAと相談しながらワーキンググループを作って真剣に対策を検討している。ワーキンググループの検討結果は2000年夏ADEC(Alaska Department of Environmental Conservation)によって発表されたが、幾つかの具体的行動を勧告している。

勧告の第1はジュノー市のダウンタウンに大気モニタリング装置を設置すること、第2はアラスカ州に入る全てのクルーズ船の固体、液体の全ての廃棄物処理の監視と第3者によるランダムな排水分析の実施である。さらに、クルーズ船協会はこれらの動きに呼応して、アラスカの重要ポイントに8隻の油濁回収用バージを配置することを申し合わせ、既に一部実施されている。

 

 

 

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