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6-2 有機すず化合物防汚塗料

 

最近、アザラシやクジラ等の海洋生物をはじめとする野生生物の生息数の減少等の一原因として、環境ホルモンがクローズアップされている。環境ホルモンとは、環境中に存在するある種の化学物質が体内に取り込まれて、ホルモンと同じような働きをする、あるいはホルモンのバランスを崩してしまう作用があることが分かり、名付けられたものである。環境ホルモンと疑われる物資は約70種(群)あるが、環境ホルモンが一般の化学物質による環境汚染と異なるところは、非常に微量の化学物質が原因となって生殖器の異状や免疫系の異状を起こし、野生動物や人類の存続を脅かすという大問題に結びついている点である。

 

前記70種の中に、船舶の防汚塗料中に含まれる有機すず化合物TBT(Tri-butyl Tin)も含まれている。現在、世界27,000隻の船舶の70%はTBT入りの防汚塗料を使用しているが、TBTが使用され始めたのは1970年代である。1980年代には急速に使用が広まったが、同時に問題点も指摘されていた。1980年代、ヨーロッパ沿岸ではTBT汚染魚が発見され、メス食用貝の雄性化、不妊による個体数の減少の原因と考えられ、フランスでは1982年長さ25m以上の船舶に対するTBT塗料の使用を禁止し、これにならう国も多かった。

TBT塗料の禁止を加速させたのは、TBTが人間の免疫力を低下させるという研究が次々と現れたことである。ただし、TBTは水銀程危険ではなく、人間の体内に入ると24〜48時間で劣化するという報告もあり、一方的に悪者だと決め付けられない側面も持っているとの意見もあって、TBTの禁止が遅れた原因ともなっている。

 

TBTの使用禁止については、IMOにおいて様々な検討が行われ(これには、我が国及び米国も積極的に参加してきたわけだが、)、99年11月のIMO総会において、2003年1月1日までにTBTの使用を禁止し2008年1月1日までに船舶の防汚塗料から一切TBTをなくすという国際規則を策定することが決議された。本年(2001年)には、国際規則採択のための会議が開催される運びとなっているものの、TBTの使用を世界的に禁止しようという案がそのまますんなり強制法規となるかどうか確定的とまでは言い切れない。国によっては対応状況が充分でない国もあり、また、TBTを擁護する有機すず環境プログラム協会(Organotin Environmental Program Association: ORTEPA)等が盛んに全面禁止に反対しているからである。

ORTEPAでは、TBTを一方的に禁止すると外国種生物の侵入を増大し、さらに、汚染性能の落ちる塗料を何回も塗装するのでVOCの排出が多くなり、別の環境問題を派生するとしている。また、不用意にTBTを禁止した場合の、造船産業に与える損失についても言及している。ORTEPAがPrinceton Economic Researchに発注した研究報告書によれば、国際的にTBTを禁止した場合のコスト増は年間16億ドルに及ぶといわれている。

 

 

 

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