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5-4 統合液体廃棄物処理システムと連邦統一排出基準

 

第4-1節で述べたごとく、米海軍はESS−21の廃棄物処理の将来像としてIWPSを考えIWPSの種々のオプションを比較検討中であるが、IWPSに至る中間段階として、液体廃棄物すなわちビルジ油水、ブラック水及びグレー水を同時に処理する統合液体廃棄物処理システム(Integrated Liquid Discharge System: ILDS)の完成を急いでいる。

ILDSは、膜技術と熱破壊技術を組み合わせて、液体廃棄物を同時に処理するシステムである。まずビルジ油水、ブラック水及びグレー水は超膜分離システムにより、船外排出可能な水分と濃縮された汚物に分離される。濃縮された汚物は、焼却炉などの熱破壊システムで燃焼する。

 

ILDSの要素技術の開発段階は、バラバラである。OWSとMVSSは、海軍が長期間使い慣れてきたものが組み込まれる予定である。第5-2節で述べた海軍が開発中の油水分離用超分離膜は、濃縮汚油のボリュームを1/100にまで減少することのできる高性能なものであるが、現在基本的な艦上試験を終え中型艦に搭載されることが決まっている。また、大型艦用の詳細設計も始まっている。

第5-1節で述べたグレー水及びブラック水を同時に処理する曝気式前処理システム、超膜分離システム、後処理用紫外線システムを含むAMTSは、実験室での評価中の段階である。本システムで1/20から1/50のボリューム減が期待される。

 

濃縮汚物焼却炉についても各種焼却炉の評価を実施中であるが、海軍は現在のミルスペック焼却炉に代わり市販焼却炉の自動化、モニタリング、安全装置等を改良した焼却炉(第3-1節Advanced Incinerator)を使う予定である。

第4-3節述べたPAWDSをILDSに組み込むことはスケジュール的に無理があり、PAWDSが現実に使われるのはIWPSが実用化される時点と考えられている。

 

艦艇には、ビルジ油水、ブラック水及びグレー水といった船舶に共通の液体廃棄物以外に、艦艇に特有の幾つかの液体廃棄物が存在する。中でも、ESS−21の中で重要項目として取り上げられているものは、燃料バラスト補完システム(Compensated Fuel Ballast System: CFBS)からの排油水である。艦艇は、燃料タンクの占める割合が大きく、しかも常時喫水を一定にして復原性を保ち戦闘に備える必要上、CFBSが使用される。このシステムは、使った燃料の量だけバラスト水をタンクに入れ油水混在で常時満タンとするものであるが、艦艇の場合はタンクの大きさもまちまちでありタンク内の構造も複雑であるので、例えば油とバラスト水の境界面をゴム膜で仕切るというようなことは不可能であり、直接バラスト水を注入することになる。

 

艦艇のバラスト水注入や燃料補給は回数も多く、急速かつ波浪のある洋上で行われることが多いので、燃料とバラスト水の境界面は撹乱され、バラスト水排出時の油分濃度を15ppm以下に保つことはかなり難しい。

 

 

 

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