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5-3 バラスト水

 

船舶からの排出物で、環境と人間の生活に重大な影響を与えるものとして最近立法化が急がれつつあるものに、船舶のバラスト水中の生物種の非原産地での排出問題がある。米国の海域が外国の水中有害生物種(Aquatic Nuisance Species: ANS)で脅かされている事実は、最近のトピックの一つとなっている。過去数10年間で、侵入してきた外国種は急激に増えているが、200海里のEEZ以遠で操業している船が米国のEEZに入ってバラスト水及び沈殿物を排出するのがANSを持ち込む大きな原因となっている。ひとたびANSが入り込むと、米国だけでも数千億ドルの損失を招くおそれがある非常にリスクの大きな環境問題である。

 

1999年の海洋生物侵入種問題会議で、内務長官Bruce BabbitはANS侵入防止及び対策のための連邦政府と産業界の出費は年間123百万ドルの巨費に達し、12週に1度は新しい生物種が米国のEEZに入込み、生態学上、経済上、レクリエーション及び健康上に重大な影響を与え、その損失は長期にわたるので油濁を上廻る環境問題であると述べている。

1度ANSが定着すると、その除去はほとんど不可能であるので、侵入防止が唯一の防止策となっている。ANSが侵入地区で繁殖する条件は、その地域が原生地域と気候及び環境条件が似ていて、かつ、天敵がいないことである。

 

米国で最近最も注目を集めたANSの事例は、5大湖におけるゼブラむらさき貝の1989年の繁殖である。この貝はカスピ海原産であるが、1986年ロシア船のバラスト水中の幼生貝が5大湖で排出されたことが原因であることが確認されている。この貝は湖底で猛繁殖して、水中の植物相や水の化学そのものを変えて、在来種の生存を不可能にした。さらに、25百万人が利用する日量7千億ガロンの取水口群に取り付いて取水を不可能にしたため、農場は荒れ数百の工場、原子力及び火力発電所が閉鎖に追い込まれた。本件により2003年までに米国が受ける被害総額は、30億ドルと見積られている。

 

船舶のバラスト水は、ある場合には世界的な伝染病の媒介手段となるので、そのコントロールは非常に重要である。米国EEZに海外から到達するバラスト水は、年間210億ガロンといわれている。特に、タンカーは1隻で74百万ガロンのバラスト水を蓄えるものもあるので問題は大きい。

このバラスト水は、時に外国の人口密集地で積まれ、多種のANSを含んでいる。通常1隻のバラスト水から500種のウイルス、バクテリア、原生動物、菌、糸状菌、動物、植物等が見出される。1990年には、ガルフ港に入った貨物船からコレラ菌が見つかっている。

バラスト水は、塩分の濃度により真水(0-0.5 parts per thousand)、半塩水(0.5-30ppt)、塩水(30ppt以上)に分けられる。大部分のANSは真水あるいは半塩水中のものなので、塩水中では死滅する。したがって、200海里EEZ以遠、2,000m水深の場所でバラスト交換すれば、大部分のANSを死滅させることができる。

 

 

 

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