日本財団 図書館


(2) 中期的削減方策

ここでは、概ね2010年以降において実施可能と考えられるものを「中期的削減方策」と捉えた。具体的には、燃料転換及びマイクロバブルなどによる粘性抵抗の低下技術の開発と北極海航路実現、そしてCO2以外の温室効果ガスであるN2O等の削減技術である。

 

1] 輸送エネルギー効率改善技術の導入

(燃料転換とマイクロバブル技術の実用化)

燃料転換とマイクロバブル技術の実用化を輸送エネルギー効率の改善のための中期的な技術として取り上げた。

メタノール、DME、LNG及び水素を使ったガスエンジンまたはディーゼルエンジンは陸上では既に実用化され、実績も充分ある。要素技術としてのパイロット噴射などは既に開発済みであり、大型舶用機関に転用する場合でも、技術的には大きな問題は生じないであろう。問題は燃料コストである。質量当たりの燃費として考えた場合、メタノールでほぼ同等、水素、メタンで5-10%程度劣る。同出力当たりのCO2排出量で比較した場合、水素で100%、メタンで18%、メタノールで12%の削減に繋がる。

また、マイクロバブルは現在水槽実験が行われている程度であるが、粘性抵抗を大幅に減少することができ、これも10〜20%程度の燃料削減に繋がる要素技術であると評価できると考えられた。

これらの新規技術の導入によるCO2の削減効果を-15%と仮定すると、CO2排出量は、ゼロオプションに比較して-6%程度、前述した減速航行以外の短期的方策と組合せれば-11〜12%の削減効果がある。しかしながら、短期的方策と組合せても、2020年のCO2排出量は、1997年に比してupper caseで60%弱、lower caseでも約25%増加すると予想された(表7.2-1 対策4参照)。

マイクロバブル技術の開発のためには、高効率の送風機などの要素技術の開発が必要であり、代替燃料の普及のためには、燃料コストの大幅な削減と社会インフラの整備が必要である。もちろん容易なことではないが、上記のように温室効果ガス対策としてはかなり大きな効果を持つと考えられるため、早期の開発・実用化が望まれる。

 

2] 北極海航路の実現

欧州と極東をほぼ最短距離で結ぶ北極海航路では、現在のスエズやケープタウン経由の航路と比較して航行距離が半分近くまで大幅に減少する。東京湾〜スエズ〜ハンブルグの輸送距離は約11,400マイル、北極海航路を通った場合は約6,600マイルであり、輸送距離がおよそ40%削減される。両者の海象や平均運航速度の影響はあるが、大幅な時間短縮と燃料消費量の削減が期待できる。欧州と国際ハブ港が集中する極東域とを結ぶ新航路の開発には、今後のコンテナによる製品及び冷蔵食品輸送の増加など、両経済域へのプラスの経済的波及効果も大きく期待されている。

現在はロシア国内の北極海航路航行に関する制度が十分整備されていないため、商業航路としては確立していない。今後は、ロシアが北極海航路を航行する船舶に対して気象海象情報及び砕氷船の支援サービスを行い、スエズ運河のように通航料を徴収する形態にする、あるいは北極海航路利用により削減される排出量をロシアの排出権として売買するなどの施策を行うことが可能であれば、外貨の獲得にも繋がることから、同国の積極的な関与も期待できるのではないかと考えられる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION