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以上のように、減速航行では大きなCO2削減効果が期待できるものの、その実現性には大いに疑問がある。経済の自由化に伴って一層活性化している現在の国際貿易状況において、製品輸送の割合が多いコンテナ輸送では逆に「高速化」に対するニーズが強く、無条件に減速航行を導入できない状況にある。

また、減速航行を行うことは、1隻当たりの実質年間輸送距離を減らすことにつながるため、航路、船種などによっては輸送能力が需要を下回る可能性があり、この場合は船舶数を増やすことにつながる。

例えば、定期コンテナ航路においては、各港への寄港曜日が固定できるように配船スケジュールが組まれており、航路全体に就航する隻数は平均速度に対して階段状に決定される。従って、減速航行の導入は隻数増加に繋がり、既存船が減速航行で稼いだ燃料消費量の削減分を追加された新造船が新たに使用し、思ったほど効果が上がらないという可能性もあろう。

さらに、誰が、どうやって、「上限速度が守られている」ことを監視するのか、実効性の担保についても問題がある。

 

この様に、減速航行によるCO2削減効果は大きいものの、その実施には問題も多くIMO等の国際的機関の場において慎重に検討を続ける必要があると考える。

 

6] 評価

減速航行及び船舶の大型化以外の短期的削減方策(高船齢船の早期代替、推進器に対する改良技術の導入、CO2以外の温室効果ガスの排出削減)による輸送エネルギー効率の改善効果は5〜6%と考えられ、2020年時点で第1評価基準(輸送エネルギー効率の6%改善)がほぼ達成可能なレベルまで改善が期待できる。

一方、CO2排出量では、将来の貨物量の伸びの結果、貨物量を低く見積もったlower caseの場合でも、1997年に比べて約30%以上、排出量が増加すると予測され、第2評価基準の達成には全く不十分であると予測された。

短期的削減方策のうちでも削減効果の大きい推進器に対する改良技術の広範な普及は、日本国など造船先進国では実施例が多いことから、今後新造船に対しては広範な船型、船種に普及していくことが充分期待できると考えられる。しかし、世界全体での効果を期待するためには、既存船へのレトロフィットのスピードが重要である。

一般的に言って、輸送エネルギー効率の悪い高船齢船は、パナマ、リベリアなどの発展途上国に便宜置籍されている場合が多く、経済余命とのバランスから改造に伴うコストのかかる推進器の改良を進んで実施する可能性は低い。従って、レトロフィットを促進するためには、何らかの経済的な仕組みを別途設ける必要がある。このためには、COPで論議されているCDM(クリーン・デベロップメント・メカニズム)のように、推進器に対する改良技術などについて、途上国への技術協力によって生じた削減分を先進国の削減分にカウントするといった方策も検討に値する。なお、市場原理に基づくCDMや排出権売買などの方策は、可能な限り早期に導入予定をアナウンスすること、あるい議論を開始することにより、ボランタリーな前倒し効果が生じることがあり、これが短期的削減技術の導入の促進にもつながる可能性もあることから、IMOなど国際的な場で積極的な議論が展開されることが望まれる。

 

 

 

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