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また、塗料に含まれる有機金属の毒性を避けるために、金属フリーの塗料として、シリコン系樹脂やガラス樹脂などを使用し撥水効果を持たせた塗料も開発中である。小規模な付着実験では24ヶ月程度の防汚寿命が報告されているが、皮膜の物理的脆弱さが問題となっている。また、船体そのものにチタン系合金または銅ニッケル合金を用いて表面の平滑化と防汚を兼ねるアイディアも1980年代に提案されている。今後コスト的に見合うか、再検討する必要があるかもしれない。

また、導電塗膜については、太陽電池と組み合わせた小型レジャーボートなどへの応用例がある。しかし、防汚効果を発揮するには塩素を発生させるまでの電解強度を船体全体に均一に発生させることが必要であり、大型船舶への応用はコストや施工精度から考えて困難と考えられた。同様に船首部に大型の塩素発生装置を組み込み流線上に拡散させる方式も開発されているが、コスト的に代替塗料と比較して不利と考えられる。

 

(3) マイクロバブル技術による摩擦抵抗の低減

摩擦抵抗の積極的なコントロールとして、開発中の技術ながらマイクロバブルを用いて摩擦抵抗を減少させる技術がある。マイクロバブル法は、直径1mm以下の微小気泡を船底に流し船底表面と流水との境界層中に発生する乱流を抑制する事で、摩擦抵抗を大幅(20%程度)に減らすものである20。また、常時のマイクロバブルの放出は、生物附着に対しても防止効果が期待できる。同種の技術には、船体表面に細かい溝を設けるリブレットや船体表面に扁平な物体を置くLEBU(Large Eddy Break Up)などがあり、船体表面における境界層の発達を抑える目的で研究がすすめられている。これら摩擦抵抗の削減技術は、日本造船研究協会においてSR239として摩擦抵抗低減技術の一つとして研究開発が進められている。

なお、クリーンな排ガス(現行のディーゼル排ガスをそのままスクラブすると、油汚染のおそれがある)をマイクロバブルに用いた場合、排ガス中のCO2の海水への溶け込みもある程度期待できる。CO2排出抑制効果については、海水中のCO2平衡状態を加味した検討が必要と思われるが(溶け込んだCO2が再度大気中に移行する場合がある)、外洋ではCO2のシンク(大気からCO2を吸収する海域)になっている海域も多い事から、大気へのCO2放出量を減少させる可能性も考えられるものである。

 

(4) 船体重量の軽減

船体重量の軽減は、同じ燃料消費量であれば載荷重量トンの増加に繋がるため、輸送エネルギー効率の改善に繋がる。TMCP鋼の出現以降、船体構造に高張力鋼が広範に用いられ、パネルの薄肉化による船体重量の軽減が進んできた。高張力鋼は採用当初は応力の最も高い上甲板の中央部付近に限られていたが、次第に拡大して現在では船舶の全重量の70〜80%に及んでいる。仮に軟鋼(NK規格でKA)の船舶が70%程度を高張力鋼(KA36)などにした場合、24万DWTのタンカーではコロージョンマージン(長期間の使用後の腐食などにより部材の厚みが薄くなる割合)を見込んだ上でおよそ5,000トンの重量削減に繋がると試算できる。

 

20 高橋他(2000)、第74 回船舶技術研究所研究発表会講演集

 

 

 

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