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証言期間中に、船長は、通常では、もっと高速力で運航されていると発言している。それでも、安全委員会は、この船長の選択には賛成できないし、水先人がヴィンヤード海峡をQE2で通航するのに、この25ノットの速力とした船長の選択に素直に従ったことにも賛成できない。

この海域では、計画された進路線が比較的直線状(距離もあり、変針数も少ない)であり、高速力ででも操船上問題になる障害も存在しないという事実があったとしても、この水域を航行する際の速力を決定するに当たっては、ヴィンヤード海峡の船底下水深に多大の注意を払う必要があった。水先人は、喫水32フィートの船舶に対して進路を決める際には、最小水深として40フィートの水域を選ぶことにしていると証言した。しかしながら、この水域の海図では、短い距離で水深が多様に変化していることとともに、そこここに岩場が存在することが記されている。その内容は、船長あるいは水先人が、QE2の船底下水深の安全度を十分に取るよう、低速力で運航するように注意を呼び掛けている。また、水先人が海図の精度に対する信頼感があったとしても、同人は、QE2を水深の大きい水域で航行するよう、努力すべきであった。そうすれば、海図に示された水深に変化があっても、または、差異があっても操舵操船に余裕が生じるからである。航路幅が制限された水路であるために、測定船位にたとえ少々でも誤差が発生したら、外洋での誤差に比べて非常に大きな影響をもたらせることとなる。低速運航であれば、操舵機系統や他の機械系統の緊急事態発生時にも適切な対処をとることが可能になるのである。

安全委員会が、喫水が32フィートもある、どんな船であっても25ノットでヴィンヤード海峡を走らせるのかと水先人に質した際、水先人は:“いいえ、そんなことはしないでしょう。自分の思う通りに船を動かせてくれる乗組員などに出会えないですから。皆さんだって思う通りの技能を持った人間を船橋内に[見つけ出す]ことはできないでしょうね。”と答えた。この水先人の乗組員の能力についての意見にも関わらず、25ノットの高速運航を受け入れると決定したのは、乗組員の実力以外の何かが基になっていたのに違いない。安全委員会は、船長が設定し、水先人が同意したものではあるが、あの大喫水の船舶で水深の変化が激しく、海底が岩場のうえ、船底下の余裕水深が一杯々々の海域を航行するのに25ノットの速力は不適当であったと結論した。

 

船橋内の資源管理

船橋内における航海当直動作の伝統的管理法…QE2航海士達の証言によれば、航海当直中であった一等航海士と二等航海士は、航行状況を監視し、船長の指示を順守することとの命令簿に書かれた内容に従って当直をしていた。

 

 

 

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