現在、組合や関係者の話を聞くと作業性のよい、軽い常時着用型の安全衣が開発されているとのこと、また組合や各種部会単位で救命衣の着用義務化をしている所が増えていると聞きます。非常によいことだと思います。しかし、私は、規則が無くとも漁業者自ら救命衣の常時着用をするという意識が重要と思います。
救命衣を着用していればすべての海難事故が防げるということではありませんが、少なからず海難防止に対する意識が変り、それがすべての事故防止につながっていくのではないかという気がします。
この事故によって、組合の仲間をはじめ、近隣の組合や救難所の皆さんに漁を休ませ、大変迷惑をかけてしまいました。
救命衣を常時着用することはもとより海難防止に意を注ぐことは、地域社会に生きるものの社会的責任を全うすること、責務であると痛感した次第です。
安全があるからこそ生産があるのであって決して生産の後に安全がついてくるものではないと切に思います。
命に着せようオレンジベストを!
どうかご参加のみなさん、今一度海難防止の重要性についてお互いに認識を新たにしようではありませんか。
海中転落の体験から
留萌漁業協同組合
今野隆(こんのたかし)
今、思い出してもぞっとするのですが、その事故のあったのは、平成十一年七月十一日、業種は、ナマコ桁網漁、漁師言葉でナマコ引きです。天候は晴天、海は沼のようなよい凪で、日中の気温が二七〜三〇度にもなるような暑さでした。
私たちの一日の漁の時間は、朝九時から午後五時までと、資源保護ということで時間制限をして操業しています。大体一回の操業が一時間引いてナマコを選んだりして、一時間四十分程度かかり、一日五回をもって漁を終とします。
私は、その日四回目を終え最後の五回目の八尺を落とす時に事故を起こしたのです。最後という安心感もあったのか、何か抜けているというか、時刻は午後四時、八尺を落とす準備をし、よしと思い落とした時、一瞬はっと思って自分の足が引きロープの外側になければならないのがロープの内側に入っていたので、ん、思った瞬間、体がロープにはじかれ飛んでいました。
落ちた所が海の中、船はスローで走っているので、当然自分から離れていきます。その時海の中で実際思ったことはどうするこうするではなく、やってしまったなと一瞬思っただけでした。
それからあたりを見渡して、まずは泳がなければと思った時に玉(八尺に付けてある四〇メートルほどのロープに玉をつけ八尺を引いているロープが切れた時でも分かるように知らせとして付けてある)が自分の目の前にきたのでうまくつかむことが出来ました。
あ、これで助かったと思いました。そのロープをたぐり船の方に近づいていったのですが、船のプロペラのかく海水の泡立ちの勢いがきつく、船に近づけば近づくほど、口に海水が入ってどうにもならなくなり、あまり海水を飲んでは駄目だと思い、持っていたロープを放すことにしました。ずうっとたぐったロープを延ばし最後の玉を離す時はさすがに寂しいものでした。
離す時、離して自分はまた泳ぐ、どこに泳ぐ、それを決めてからと思いながら見ると、僚船が最後の一回を引っ張っているのが私の所から千メートルもあったでしょうか。よし、まずはあそこまで泳ごう。午後五時十分前に八尺を揚げてもナマコを選んでいれば、五時二十分ごろまでは船はいる。それまでには泳ぎ着けるだろうと思い、掴んでいた玉を離し泳ぎ出そうとしました。
ところが、長靴は履いている、合羽ズボンは履いている、ぜんぜん泳ぐことができません。そこで全部脱ぎ捨て、下はパンツ、上は胴巻きとポロシャツになりました。