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第22回作曲賞選考経過と選評

―入選決定に至るまで―

 

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海老澤敏

 

毎年確実にやってくる<財団法人日本交響楽振興財団作曲賞>の選考は、周知のように、およそ次の二つのステップを踏んでおこなわれる。もちろん、これには応募のための<作曲賞作品募集要領>の決定や公示、そして応募者の作品提出といったプロセスがクリアされた上のことであるが、およそ9月末に締め切りが設定されており、11月か12月に、第1次選考委員会が開かれる。その前に委員による応募作品の内覧期間が五日間ほどしつらえられていて、委員は各自都合がつく日時に、提出された、作曲者名を伏せた総譜を閲覧する。第1次選考委員会当日も、午後おこなわれる委員会直前まで内覧が可能である。

そして第1次選考がおこなわれる。座長は筆者海老澤が仰せつかっているが、出席委員のほかに、当日、よんどころない事情で欠席される委員から、書面による内覧の評点が提出されることもある。そのほか、この作曲賞が、複数の入選作をまずこの第1次選考で決定した上で、第2次というか、最終選考が、毎年7月にもよおされる<現代日本のオーケストラ音楽>演奏会において、入選作(通常3作品)の演奏をもっておこなわれるというかたちをとるにいたってからは、その演奏の指揮をゆだねられたマエストロの、演奏上の問題点の指摘をも参考にさせて頂くようになった。場合によっては、提出された楽譜が演奏不可能ないし演奏困難であるという判断が、指揮者からなされることもあるからで、年によっては委員会と指揮者の間で、その作品の演奏可能性について意見が交わされることもある。

幾回となく、作品の絞り込みが続けられ、外国語で言う<エリミネーション>、<アウスシャイドゥング>がおこなわれる。すなわち<排除>、<除外>、<消去>といった冷たくも厳しい峻別であるが、これに対して、応募者は一言の反論もできず、もっぱらすでに提出ずみの楽譜、総譜、すなわち記号化され、それ自体も鳴り響く音として説得力ある発言も不可能なかたちでの作品のみを頼りに、ひたすら結論、決定を待ちつづけるだけという、冷厳とも言える現実は、私もその共犯者の一人である選考委員にとっても、決して快く、心弾(はず)む仕事ではなく、また行為でもない。

そうした非道ともいうべきコンクールの在り方は、演奏家の場合でも同様であるが、鳴り響く音の躍動、饗宴に、せめてみずから参加できるだけ、再現音楽家のほうが、創作者よりは、いくらか、あるいは大いに恵まれていると言うべきであろうか。

選考委員(その大部分は作曲家の方々であるが)のせめてもの願いは、そうした残酷な消去作業の中で、堂々と、あるいはなんとか生き延びた作品だけが、今度は最終選考、それも生きたオーケストラの輝やかしい楽音の圧倒的な奔流、怒濤の中で、来場の聴衆、そしてその一員である委員の耳を、胸を、心を、そして魂を烈しく揺さぶってくれることがある。

とりわけこの作曲賞では、与えられる賞金も、演奏家のためのコンクールほど多額ではないし、それにまさに優勝者のみに限られている。数年前、日本財団の厚志によって<日本財団賞>が設定され、優勝者、すなわち作曲賞受賞対象者に対して、新作の委嘱をおこなうという顕彰が加えられた。しかし、作曲賞の水準に達しえた作品が、毎年必ず立ち現われるとはかぎらず、そうした現実もあってか、最上位入選作品に対して、<日本財団奨励賞>が与えられるという措置がとられることとなった。

こうした趨勢の中で、応募者に対して、さらなる朗報が報じられた。

 

 

 

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