からだび
面白いのは千葉県市原市瑞安(ずいあん)寺の「からだび」。盆の夜。施餓鬼の華やかな万燈行列が行われる。その時墓場から亡者が入った棺桶が担ぎ出され、途中、盆踊りの最中、乞食坊主が現れて亡者を供養する寸劇が行われる。この亡者になると長生きできるとか。
盆綱引き
福岡県筑後市の「盆綱引き」も江戸時代から続く伝統の盆行事だが、その風変りが興味深い。地区の子供たちが全身を墨で真黒に塗り、頭に角のある綱鉢巻、ワラの腰ミノ姿。大人たちが明治までは観音堂と呼んでいた堂の虹梁に一端をかけて練りあげた、長さ十数メートル、太さ三〇センチほどのワラ綱を引いて地区内の道を走り回る。地獄で苦しむ亡者を、せめて盆の間は救い出そうという慈悲の綱である。
この様に変化に富んだ盆行事の多彩さは、四季と豊かな自然に恵まれ、自然を鋭く観察、学ぶことが多かった先人たちの柔軟な思考を物語る。
大陸や砂漠に生まれた一神教の様に、すべての判断を神にゆだね、鋭い対立を繰り返しながら生きてきた人々と異なり、生者必滅は世の習いと達観、死を厳粛に受けとめ儀礼化しつつも、どこか明るく楽しく未来へつなぐ庶民の輪廻思想に回帰していく。無常も矛盾も流れる才月にまかせて生きてきた歴史の所産である。
…<写真家>