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以上のような景観資源によって構成された浮野の里の景観的特徴は、マクロ的には、水田などの農地がダイナミックに展開する横の広がりのなかで、島状に点在する屋敷(林)やクヌギ並木、あるいは木立などが立体感や奥行感を創出し、平野の田園にありがちな単調感を、豊かで味わいのある田園景観に一変させる技は見事というほかない。これに、身近な部分で認識できる屋敷まわりの景観要素や石仏、小道、生活風情などが加わって、魅力ある田園景観を仕立て上げている。

注目すべき点は、これらの景観構成要素の多くは、伝統的に培われ継承されてきたものであり、首都圏の荒波を受けながら、その原風景がいまなお息づいていることである。

これまではどうしても、浮野の里=ちりじ野周辺というイメージが先行しがちだが、浮野の里の魅力はその外側に、広くちりばめられているのである。

 

2-2 自然資源

 

【浮野】 「浮野の里」保全活動の、いわば原点となった自然がこの浮野である。自然環境の特性については前章のとおりであるが、氷河時代からの浮野の形成過程に隠された地下谷の秘密や、その反映として育まれた特殊な植物群落などの自然の姿は、浮野の里はもちろん、加須市ひいては埼玉県の貴重な自然遺産である。

【歳時記的自然】 これらのひとつひとつは景観として認識できない場合が多いが、季節の変化を正確に伝える野草は、歳時記的自然として浮野の里の風景を彩る。ホタルの舞は、闇のなかでも農村の環境や景観が豊かであることを証明してくれる。野烏のさえずりは、屋敷林やアシ原が脈動を打って息づいていること伝えてくれる。これらの動植物は主役にはならないまでも、浮野の里の景観を引きたて、豊かさを加える巧妙な演出家なのである。

 

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写真2-16 土手に咲くフジバカマ。季節感を伝える身近な自然だ

 

 

 

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