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着陸点は米国ソルトレイクシティ近郊が考えられている。地球帰還の際には、サンプルを封入したカプセルのみが探査機から切り離され、惑星間軌道から地球大気に直接投入され、最終的にパラシュートを開いて地上(陸地)に回収される。このミッションで鍵となる重要な技術は、つぎの4つである。

探査機の往復には電気推進器を連続的に使用する。電気推進器はイオンを電気で加速して推力を得るもので、瞬間的な推力は小さいが長時間連続的に作動させることによって、効率よく軌道を変えていくことができる。なによりも長時間の稼動に耐えることが要求される。

対象とする天体にはレーザーによる測距離、およびカメラによる画像を利用して接近し、目標地点に向かって誘導していく技術の開発が行われている。小惑星への最終降下は、小惑星表面に投下された人工標的物を目印として行う。探査機が小惑星付近に滞在する時期には、地球から約IAUの位置にあり、地球からの指令が伝わるのに8分かかる。そのため探査機側の自律判断機能が要求される。

小惑星からのサンプルの採取方法としては、小惑星表面に接近し弾丸を発射し、小惑星表面からの破片をホーンでキャッチすると同時に離脱する。探査機が地球に接近するとサンプルを載せた再突入カプセルのみが切り離され、大気圏に突入する。突入速度は12km/sもの高速である。大気によって減速された後、最終的にパラシュートを開いて地上に降下する。

 

Q9 ミューゼス-Cは小惑星周辺でどんな科学観測をおこなうのか?

A9 今回の探査では、小惑星からサンプルを採取し、小惑星の物質に関する情報を得ることを中心的テーマとする。またサンプルから得られるであろう物質データをより深く理解するために、小惑星の物理的情報を、できるだけ多く得ることが試みられる。探査機に搭載されるサンプラー(試料採取装置)以外の科学機器であるカメラ、およびライダー、近赤外分光器、蛍光X線CCDスペクトロメーターは、サンプリング場所の選定、サンプリング場所の記載、および2ヶ所からのサンプリングでは得られない広い地域にわたる物質情報の取得に役立てられる。

カメラとライダーは、探査機が1989MLへ向けて航行、接近するために必須の工学機器であるが、科学的目的のためにも使われる。カメラは多色フィルターを付けて用いられ、表面の色、地形情報、小惑星の形状、自転、衛星の有無などが調べられる。ライダーはレーザー光の反射によって表面までの距離を計る装置であるが、1989MLへの降下、または上昇中の各時刻での位置変化を正確に知ることによって、重力に関する情報を得ることができる。これによって小惑星の質量が、また形状データと併せて小惑星の密度が得られる。反射光の強度からは、小惑星の表面状態に関する情報が得られるだろう。近赤外線分光器は波長域約1〜2μmで分光し、可視で得られるスペクトルとともに鉱物組成の推定に利用される。蛍光X線検出器はCCD検出器を用いて表面からの蛍光X線を0.7〜10keV域で測定し、Mg、Al、Si等の主要元素の分布を調べる。

これらの探査機からの観測機器に加えて、米国ジェット推進研究所が、探査機から小惑星表面にカメラ(可視、近赤外波長域)を搭載したマイクロローバーを投下することが予定されている。投下後、ローバーは表面上を移動してマイクロスケールでの観察を行う。このローバーは火星探査機マーズパスファインダーで搭載されたローバー(ソジャーナ)に似たものだが、はるかに小型で軽量化されたものである。

 

 

 

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