富士山系地下水はSO4--濃度が高く、Cl-濃度が低い。そこで富士山水系と他の水系を区分するのにSO4--/(SO4--+Cl-)*100を用いると区分に有効である。富士山水系の地下水はこの値が平均77であるのに対し、箱根西斜面水系、愛鷹山水系の地下水は平均30以下となり、明白な違いがある。箱根西斜面水系、愛鷹山水系の間には差が認められない。また、富士山系の地下水は、陽イオンでは流動距離が長くなるにつれてCa-HCO3-型からNa+が増加し、Na・Ca-HCO3-型へ移行する。このとき電気伝導度も高くなる傾向を示す。
次に、地下水の酸素同位体比をみると、富士山系地下水(南東斜面と山麓湧水)は標高の高い所の降水が供給源となっていることを反映し、δ18O値は小さく(-10〜-8.5‰、平均-9.4‰)と軽い水であるのに対し、箱根山(三島市の東の箱根西斜面湧水、沢水)、愛鷹山(東側山麓の湧水)の地下水のδ18Oは大きく(-8.5〜-7.5‰、平均-7.9〜-7.7‰)、重い水である。一般に標高が100m増すにつれてδ18Oの値は-0.2‰の割合で小さくなるといわれている。
柿田川をはじめ三島周辺の湧水群のδ18Oの値は、富士山系地下水と箱根山・愛鷹山の地下水の中間的な値(平均-8.3‰)を示し、これらの水の混合水であることを示す。
また、黄瀬川流域の溶岩台地(裾野市、三島市)の井戸水の溶存成分とδ18O値を調べると、水質では、深さ20m前後の浅いところではSO4--+Cl-に対するSO4--の割合が大きく、66%と富士山水系の水質を示すのに対し、深度120mの深いところではその割合が36%と小さく、箱根・愛鷹山水系の水質を示す。δ18O値をみても浅いところでは軽く、標高の高い涵養域を示すのに対し、深いところの水は重く、標高の低い涵養域を示す。これは三島溶岩流中を流れ下る富士山水系の水のまわりに、箱根・愛鷹山水系の水の分布を示す。この水の流れは三島市域に達するとSO4--の割合、δ18O値とも、平均化が進み、富士山水系と箱根・愛鷹山水系の水の混合が進んでいると考えられる。
溶岩台地(裾野市、三島市)の井戸水の溶存成分とδ18O値
さらに細かくみると、三島湧水群のδ18Oの値‰は
となって
柿田川湧水と丸池湧水はδ18O値が小さく軽い水で、比較的富士山系地下水の寄与が大きいことに対し、小浜池、白滝公園の湧水は重い水が多く、富士山湧水の寄与が少ないことを示す。
柿田川、丸池、楽寿園小浜池(「三島市地下水滋養方策研究会」)、白滝公園等の湧水が分布する東海道線以南の三島扇状地および沖積平野の地下水では多数の井戸や湧水に水質(SO4--/(Cl-+SO4--)当社比とδ1818O)の調査結果で、直線状に並んで白滝公園、小浜池、丸池、柿田川の湧水の方向に富士山水系地下水に富んだ地下水が南下している様子が伺える。