この駆虫活動は、カンボジア国立マラリアセンターが中心となって実施しているものであり、メコン住血吸虫症流行地の小学校児童に、駆虫薬(プラジカンテル)を1年に1回服用させるものである。患者がプラジカンテルを服用した場合、患者体内のメコン住血吸虫が死滅して糞便中への虫卵の排出はみられなくなるものの、血清中の特異抗体価は長期にわたって高い値を持続する。したがって、集団駆虫を実施した直後には、たとえ血清検査が陽性であっても虫卵は検出されない例の割合が高くなることが予想される。このように、駆虫の時期と検査の時期との組み合わせによっては、メコン住血吸虫症の流行状況を正しく評価できない恐れがある。さらに、人体へのメコン住血吸虫感染は、メコン川の低水期である2月から5月頃に集中すると推測されている。今後の調査にあたっては、以上のことをふまえて、駆虫や疫学調査の時期を設定する必要がある。メコン住血吸虫症の流行状況をより正確に把握するためには、生きたメコン住血吸虫が人体に感染していることを、高い感度で検出する検査方法が求められるが、このような条件を満足させる検査方法は現在のところ開発されておらず、われわれの研究室における研究課題のひとつとなっていることを付け加えたい。
2]その他人体寄生蠕虫:糞便検査では、メコン住血吸虫以外の寄生虫卵も検出された。最も高率に検出されたのは、鉤虫卵であった。鉤虫卵の検出率は、Kbal Chuorを除くすべての地点で50%以上を示し、全249検体の平均検出率は49.0%となった。特にスタン・トレン省のSdauでは、34検体中26例(76.5%)で鉤虫卵が検出された。鉤虫に次いで高率に検出されたのは蛔虫卵で、全249検体の平均検出率は18.5%と算出された。その他、鞭虫卵(平均検出率2.0%)・オピストルキス属肝吸虫卵(平均検出率3.6%)、そして小形条虫卵(平均検出率2.0%)が、それぞれ少数例ながら検出された。調査地域内で流行している人体寄生虫症の中で、住民への健康被害が最も大きいのはメコン住血吸虫症であると考えられるが、他の寄生虫症についても、衛生教育や駆虫薬の配布などの対策を講じていく必要がある。消化管寄生蠕虫類は、駆虫薬の服用後に虫体が体外へ排出されるのを肉眼で確認できるため、衛生思想を普及させる際の手がかりとして有効である。したがって、住民の理解を得やすい消化管寄生蠕虫対策と、被害が著しいメコン住血吸虫症対策とを組み合わせて実施することで、寄生虫症全般の流行を軽減させることが期待できる。
3) アンケート調査
メコン住血吸虫症の流行には、トイレの使用や川水との接触頻度など、住民の生活習慣が深く関わっている。これは、メコン住血吸虫の虫卵が患者の糞便とともに排出され、ヒトヘの感染は水中の幼虫(セルカリア)が経皮的に侵入することによっておこるという、メコン住血吸虫の生活環に起因する。そこで本年度の調査では、流行地住民の生活実態や衛生思想の普及程度を調べるために、小学校児童を対象にアンケート調査をおこなった。質問の内容は次の7項目とした。