ごあいさつ
財団法人 神奈川芸術文化財団
今、西暦2000年という大きな時代の節目を迎えています。それは20世紀の最後の年を意味すると同時に、21世紀への幕開けと展望の転換期でもあります。
その節目を迎え、20世紀を生きた日本の代表的な作曲家の第一人者としてのみならず、指揮者・文筆家など、多分野にわたって活躍される團伊玖磨氏をとらえ、その軌跡の全貌をご紹介いたします。
團氏が深い縁をもつ“神奈川”という地でこの事業を展開するにあたっては、(財)神奈川芸術文化財団が運営する施設での公演のみならず、團氏と縁の深い組織・団体あるいは関係者にもこの企画を提案し、共催、参加公演という形の共同企画を図った全国的な規模の事業が「DAN YEAR 2000」です。
團伊玖磨氏の作曲活動は、昭和17年に歌曲やピアノ小曲集等を発表して以来58年におよびます。その創作活動の長さと幅の広さは、親しまれている作品の数々を鳥瞰するまでもなく、すでに“国民的作曲家”と呼ぶにふさわしい存在といえます。
子供のころに誰でも一度は歌ったことのある「ぞうさん」、美しい都会と自然美のメルヘンを歌った名曲「花の街」、そして北原白秋、荻原朔太郎らの詩により日本の詩情を美しく歌いあげた珠玉の歌曲集の数々。活動の前半はこうして主に声楽曲め創作に捧げられましたが、その中でも不朽の名作として知られているオペラ「夕鶴」は現在でも650回を越える公演を記録し続けています。
また昭和34年に皇太子殿下(今上天皇)のご成婚を祝して作曲された「祝典行進曲」は、その後の「東京オリンピック」の開会式の青空にも響きわたった記念碑的な名曲です。その33年後、今度は現・皇太子殿下のご成婚に際して作曲された「新・祝典行進曲」もまだ耳新しく私たちの脳裏に焼き付いています。そして平成9年に開場した東京・新国立劇場のオープンを飾った最新作のオペラ「建・TAKERU」。こうして團伊玖磨氏の数々の音楽が日本文化の歴史の節々で奏でられてきました。
團伊玖磨氏の積極的な創作意欲と新鮮な芸術精神は、絶えることのなく現在も旺盛に続けられ、今回の「DAN YEAR 2000」の最終公演が“歌曲集の初演”で飾られていることにもそれが象徴されています。
これまでの氏の軌跡を追いながら、その功績を再確認するとともに、今回の企画を、演奏のみならず“作曲”の存在理由にも注目していただき、戦後の音楽活動の再考に一石を投ずることになればと思います。