それではなぜ人はこうも「聴く」ことが難しいのでしょう。人間の特性に照らし合わせて考えてみたいと思います。
ア 人間は自分の準拠枠に沿って、人を評価したり、裁いたりしがちである。(価値観が、常に他人より自分に置かれている)
イ 人は無意識のうちに選択的に話を聞いている。(自己防意識がはたらく)
ウ 人は自分の体験に照らして、人の話を聴く傾向にある。自分の体験がなければ理解できないし、あればどうしても自分の方に引っ張っていきがちである。
エ 自分の意見を発言したくなり、その準備をしながら話を聞く。
オ 自分の心理状態、精神的余裕に左右されやすい。
カ 人は社会的な立場、自分の占める役割上、なかなか人と対等・水平な関係が作れない。
キ 時代そのものがマルチ傾向にあり、よほどの努力と忍耐を要しなければ、他人の話を聞くことだけに集中できない。
(2) 上手な聴き手となるための心得
この章では、上手な聴き手となるための具体的な技法について、述べてみたいと思います。そもそも技法とはどういうことでしょうか。
ロジャーズは、「技法とは、カウンセラーの基本的態度を相談者に伝達するチャネルである」と定義しました。また自著の巻頭に−The way to do is to be.−と自筆で記したのは有名な話です。この言葉は日本において、「その人の方法は、その人の人柄の表現である」(国分康孝)、あるいは、「援助関係とは、『いかにするか』ではなく『いかにあるか』である」(伊藤博)と訳されています。またロジャーズは、この考えを老子の「無為自然」の思想からヒントを得たとも言われています。つまり極端な言い方をすると、技法とはそれ自体が独立して存在するのではなく、その人の人間性全てが技法であるということです。