はしがき
近年、公務職場においては、OA化や情報化が急速に進展し業務がますます複雑・高度化するとともに、価値観の多様化等に伴い人間関係も複雑化し、更には、独立行政法人への移行を控える等、職員を取り巻く環境には新たなストレス要因が増大しつつあります。こうした職場環境の変化は情緒障害や適応障害を始めとするメンタルヘルス問題を惹起し、極端な場合、自殺者の増加という形で顕在化していますが、自殺には至らないまでも職場不適応の状態に陥っている職員は、潜在例も含めれば相当の数に上るものと懸念されます。
一方、個人の尊厳と人格を不当に侵害し、職場秩序に悪影響を与えるセクシュアル・ハラスメント問題も、権利意識の高まり等から表面化し、人事院が実施した調査の結果でも深刻な実態が示されています。
これらに代表される公務職場における問題は、公務能率の増進を図る上では重大な障壁となるため、職場環境の改善と相談体制の整備等が緊急の課題となっています。この観点から、メンタルヘルス対策に関しては、昭和62年に人事院福祉課長通知「職場におけるメンタルヘルス対策について」を発出するとともに、平成10年からは地方事務局に順次メンタルヘルス相談室を開設しているところです。一方、セクシュアル・ハラスメント対策に関しても、人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)を制定し苦情相談体制を整備する等の措置を講じてきています。
しかしながら、対策をより効果的に推進するためには、こうした体制整備と相侯って、職場の管理・監督者の果たすべき役割がきわめて重要と考えます。日常的に部下職員と緊密に接触し、その勤務ぶりを常時見ている立場にある管理・監督者は、私的な付き合いも含めれば、部下職員の言動等の変化をいち早く察知できるわけで、適切な初期対応をとることによって深刻な事態への進行を効果的に予防できる可能性もあるはずです。前述の福祉課長通知においても、「管理・監督者は、部下職員の日頃の言動に対し、客観的で正確な観察姿勢が必要とされるほか、職場不適応が疑われるような部下職員と接する場合には、メンタルヘルスについての正しい理解と認識に基づいた適切な対応をすること、つまり、“カウンセリング・マインド”を持つことが必要とされる。」と述べています。