『オルフェの蝶』と『オルフェウス』〜演出にあたって〜
脚本・演出 庄崎隆志
初めてもらった役は第一作「オルフェ」の二羽の蝶。僕はもともと美術関係の仕事を希望し、単にアルバイトのつもりでデフパペットに来ました。そこで初めての役が蝶だったのです。釣竿のてっぺんの軽い紙で作られた蝶の人形を、ノウハウもわからず動かしてみるうち、描いてしまったらもう手直しの効かない美術と違い、蝶という人形は「表現する物体」であることを知りました。本物の蝶のような動きができるのか随分悩みましたが、演劇の先輩や全国の皆さん、実行委員の皆さんとの出会いのお陰で日々変化していきました。演劇が、手直しすることの可能な世界であることに気づき、半年後、僕は主役オルフェを演じていました。「一歩ふみだしてから恐る恐る前進する」という気持ちで一九八〇年代は演劇のいろいろな方法論を知り、一九九〇年代は試行錯誤しながら自分なりの演劇を作り出す時期でした。そして二〇年目、「オルフェウス」の演出・脚本をてがけることになりました。あの時の蝶が時空を越えて何か僕に働きかけてくれたのか、蝶の不思議な力を感じて、とても厳粛な気分になりました。
今回の「オルフェウス」は、二〇年前の『オルフェ』を再び登場させるつもりはありません。人形も脚本も演出も新しく、いわゆる再演ではなく、全く初演の作品を作るのです。神話の世界にある過去と未来という線を探るうちに、僕自身の中に新たに「過去との共生」という気持ちが強く生まれてきました。
今回演出をするにあたっては、美術・安元氏とのコンビネーションが重要な要素でした。
演出の意図するところのかなり大きな部分は、生身の人間では作り出せない世界を、人形や仮面、オブジェによって創造するというものでした。「夢と現実の狭間を行き交う少年」「生者と死者が同じ空間に存在するオルフェウスの世界」「後ろを振り返ってはいけないというタブーを犯す重大なテーマ」を念頭において、オルフェウスの世界を具現化しました。
二〇年前のオルフェの蝶を追うように、僕は懲りることなく芝居を続けるでしょう。
プロフィール
一九八〇年 デフ・パペットシアター・ひとみに入団
「オルフェ」からデフ・パペットシアター・ひとみのすべての作品に参加
一九九〇年 川崎能楽堂にて手によるパフォーマンス「手の詩」独演会
一九九〇年〜一九九六年 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院「身体表現論」講師
一九九二年 オレゴン州立ポートランド大学演劇夏季セミナー現代演劇集中コース「仮面と手」講師
イタリア国際デフ・文化芸術会議「身体とオブジェクト」講師
一九九二年〜現在 福島夏季身体表現セミナー講師
一九九三年 「真夏の夜の夢」日本ろう者劇団との合同公演に米内山氏との共同演出
一九九六年 「ブラックカンパニー」演出・脚本
一九九六年〜現在 国立特殊教育研究所講師
一九九八年 風の市プロデュース「鏡にうつす花の男たち」脚本・演出
一九九九年 風の市プロデュース「RASYOMON烏・風の迷路」脚本・演出
二〇〇〇年 埼玉県坂戸ろう学校特別非常勤講師
世田谷パブリックシアター・夏のワークショップ講師(一九九九年より)
第一〇回日本福祉文化学会大会講師