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―実践報告―

私達はろうあ者と難聴者だけの太鼓グループ『龍姫太鼓』です。

結成して3年10ヶ月。今日まで一生懸命太鼓を練習してきました。

今から少し、私たち太鼓グループ結成の歩みをご紹介いたします。

先程、私たちろうあ者と難聴者だけの太鼓グループと申しましたが、実は初めからそうだったわけではありません。現在のメンバーの数人は、結成前から一般の健聴者と一緒の太鼓グループに入り太鼓を叩いてきました。しかし、リズムを覚える早さや音の強弱の調整の上手さが健聴者とはあきらかに違い、また健聴者と音を合わせることの難しさが双方にストレスをあたえるようになりました。

耳の不自由な私たちが楽しめる数少ない楽器である太鼓が、このような問題で嫌いになり終わってしまうのだろうか? やっぱり障害の壁は乗り越えられないのだろうか? そんな憂鬱な毎日を過ごしていました。

そんなことを考えながら練習に行くのも消極的になっていた時、いろいろな方の温かいご指導もあり、ふと、これでは今までの自分たちと同じであることを感じました。ならば、今の太鼓グループからろうあ者だけ独立して、『自分たちだけの太鼓グループを作ろう』と立ち上がったのです。

これならリズムを覚えるスピードが遅くても健聴者に気を使うことはない! 皆、同じ障害を持つ者同志で演奏するのだから、リズムも合わせられるはずだ。なんだか強い勇気が生まれてきました。善は急げ! そんな私たちのことを聞きつけた近隣のろうあ者が1人、2人と集まり始め、やがてここに『龍姫太鼓』誕生となったのです。

スタート時には問題もいろいろ起こりました。大きな問題は、リズムの間違いを指摘するのは誰かということでした。私たちがこれから成長していくためにも指導者が必要でした。幸いにも私たちの気持ちを理解して下さった健聴者の太鼓グループの方がボランティアで私たちを指導してくれることになり、その通訳も手話サークルの皆さんのご協力をいただけることになりました。

後は、甘えていられません。今までならば上手く叩けないことを障害のせいにすることもありましたが、これからは許されなくなったのです。耳から感じないリズムを指導者やリーダーの手の動きを見て合わせ、身体で覚えていきました。なかなかリズムが覚えられない人には、できる者ができない者の左右の方を叩いてリズムを教えます。床から足、そして上半身へと伝わる響きを感じとりながらの演奏です。

練習場所の予約、ハッピ・太鼓の購入など何もかも自分たちのことは自分たちでやってきました。

メンバーの心の中にも変化が自然に現れました。今までは何でも直ぐに諦めていたことが、始めはだめでも、繰り返し練習すれば何でもできるんだということを太鼓を通じて知り、生活態度も変わりました。また、太鼓をやる前は何もすることが無く、パチンコばかり行っていた子も、太鼓という新たな楽しみを見つけました。自分たちでは何もできないと思い込み、健聴者に頼りがちだった私たちに、自立心や責任感、そして協調性が芽生えてきました。大げさに言えば、太鼓が私たちの人生をもかえたのです。

 

 

 

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