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しかしながら、新海岸法においても、一般海域については殆ど新しい法整備がなされることはなく、一般的な射程を持つ海域管理法制の構築は、またしても先送りされることとなった。国連海洋法条約の批准による国内発効からすでに5年近くが経過しており、わが国に属する海域の管理に係る法制度の空白を埋めるための国内法の整備は、焦眉の課題ということができる。

また、上記の海岸法改正を含め、今次の地方分権改革に伴う法整備によって、海岸・水路・里道など、従来法定外公共用物として括られてきた領域について、その管理法制が整備された。その結果、法定外公共用物のうち、現在でも管理法制が空白のまま残存するのは、海域のみという状況となった。もともと、海域(一般海域)は、法定外公共用物の中でも特殊な法的性格を持つものであったところ、他の法定外公共用物について「法定外」たる所以であった課題が立法により解決されたため、文字どおり、海域の「法定外」たる性質が際立つ状況となっている。

海域ないし海洋の管理に係る法制度の構築について、わが国の行政法学は、一定の議論の蓄積を見ている。その場合、行政法理論上の枠組みとしては、公物法理論が用いられることが一般であった。すなわち、海域全体を公物ととらえ、公物法通則に基づく法解釈論の枠組み(公物の使用関係の類型化がその典型である)を応用して分析を行い、海域に係る新しい公物法のあるべき姿を模索する、という作業が展開されてきた。その結果としては、海域ないし海洋の公物としての特殊性を踏まえ、海域全般の管理を可能にする総合的な法制度の必要性が指摘されることが見られた。

しかし、筆者は、このような公物管理法のみをベースにした海域・海洋管理の行政法的議論それ自体について、一定の疑問を抱いている。すなわち、海域・海洋の管理法制を論じる場合に、公物法理論の有する限界を意識し、公物管理とは別の視点から新しい法制度の構築を論じるべきではないのか、と考えている。その趣旨については、すでに別稿において公表したところであるが、(1)公物管理法という行政法理論上の枠組みの射程を画定し、沿岸域管理法制(陸域との一体的管理システムによる部分)と海域・海洋管理法制の区分けを明確にすること、なかんずく、国内行政法の法概念としての海上警察概念についての議論を深化させることが必要である、との私見を抱いている。

 

 

 

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