海上保安の分野については、国家の根幹に係る事項であること及び海上という特異な環境(広域性、移動性等)及び国際性等から地方分権体制に馴染まないと考えられるところ、検討段階においてこれを主張する海上保安当局サイドと地方分権の流れに乗る立法者サイドとの間で相当な議論がなされ、結果的に地方分権化されることとなっています。
地方分権下での海上保安体制は、各州(25州)は領海(12海里)までを管轄海域とし、12海里以遠については中央政府が管轄することになり、実質的には中央と地方の2体制となります。このような分担の仕方は、現実的なのかどうか多いに疑問のあるところですが、方針が出た現段階においても、行政当局サイドには先行き結果に関し諦めに似た意見も囁かれています。また、現在、運輸大臣指揮下の地方運輸局及び地方航行援助事務所は、各州知事の指揮下となります。地方港湾行政事務所及び港湾事務所の取扱いについては従来の1級港に加え、2級港の管轄を主張する中央政府と州政府の間で調整している段階です(港の管轄の分権については、利権問題も絡み調整には時間がかかるかもしれません)。地方分権体制の実施にあたっての具体的な事項については、このほかにも詰めなければならない事項があり、基本的には、運用面は地方へ分権し、政策面は中央が担当することで現在調整がなされています。これらは、今年9月までの関係規則の策定により明らかになる予定ですが、この結果は今後の国際協力面に少なからず影響を与えることとなり、その動向を注意深く見守っているところです。
6. おわりに
スハルト長期開発政権は、良きにせよ悪しきにせよ経済の安定的高成長を促し、そのことが政治の安定に大きく貢献してきました。事実、97年以降の通貨金融危機による経済の混迷は、政治・社会を大混乱に陥れました。スハルト政権後の新政権は、経済危機の克服、民主的な政治制度の構築、分離・独立運動の収束等を優先課題として体制作りに取り組んでいますが、一方で政治改革の混乱が社会秩序の安定を阻害する事象を生じさせています。インドネシアはこのような情勢において、現在がまさに過渡期にあり、この時々の政策や方針は今後のインドネシアの体制作りに大きく左右することは過言ではないと思います。