このことは、これまで国軍が担当してきた国内治安、警察の任務を民主化の促進に併せて分離し、軍に代わる国内治安の第一義的機関として国家警察が任務を遂行する体制を固めるとともに、同時に軍の国防への専従化を図る動きと見ることができます。
一方、海上保安の現状は、海上警備救難当局として海運総局警備救難局が設置されていますが、十分とは言い難い船艇勢力(計129隻、大型クラスの巡視船として40メートルクラスが9隻、その他は20メートル以下の巡視艇、航空機0)から機動力不足は否めず、特に遠距離海難等においては、現場勢力に関しては実態上、海軍が主力を編成する状況が多々あるようです。
今後、国家体制が民主化促進の道を歩む中、海上における警備救難事案に対しては、軍から国家警察へ移行する国内治安体制と同様に、軍が国防に専念する中、警備救難局(航行援助局)が体制を強化し第一義的な海上保安機関として責務を遂行していくことが必要となります。このことは、インドネシアの国是であるパンチャシラにも適うものと思われます。
〔警備救難局及び航行援助局の幹部は、民主化促進及び地方分権下での新たな海上保安体制の構築を内々に検討しています。これは、過去に海上保安庁で研修を受けた幹部職員が、十数年にわたり暖めてきた考えに基づくもので、警備救難局と航行援助局を統合して海上保安に関する新総局を運輸省内に設置しようというものです。民主化促進と地方分権政策推進の二大潮流の中で、長年にわたりその機会を待ちつづけてきた組織体制強化を図ろうとするもので、既に主要幹部の理解を得、現段階では大臣への説明を残すのみとなっているということです。〕
5. 地方分権下の海上保安体制
インドネシアではスハルト政権の崩壊以後、従来の中央集権体制を見直し、地方分権化政策が進められており、現在、行政、政治において最も大きな課題の一つとなっています。99年4月に制定された地方行政法においては、中央政府の機能は、国防、治安、金融・財政、外交、司法の分野に縮小され、地方政府の権限・機能が強化されます。実際の施行は2001年1月からの予定で、今年9月までに施行に当たっての関係規則案が策定されることとなっています。