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明日への提言

 

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笹川鎮江

 

芸術にしてもスポーツにしても、究極のできばえとは楽しみをつかむところにあるのでしょう

 

シドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手に国民栄誉賞の発表がありました。高橋選手の日本陸上女子初の五輪金メダルもさることながら、日本国内のみならず世界中に感動を与えたことですから、国民栄誉賞として、その偉業がしっかりと日本の歴史に刻まれることは、たいへん素晴らしいことであると思います。

その高橋尚子選手は、金メダル獲得後のインタビューに答えて「全然緊張しませんでした。すごく楽しい四十二キロでした。」と語っていましたが、走っている姿もそのとおりだったことが思い浮かびます。

この高橋選手がマラソンを楽しんで走ったという言葉を聞いたとき、いわゆる「苦吟(くぎん)」という言葉がそのままあてはまるような漢詩づくりをこともなげに楽しくやったという、江戸時代を代表する詩人、菅茶山(かんちゃざん)のことを思い出しました。

菅茶山は、今年の第十五回国民文化祭・ひろしま二〇〇〇の本部企画構成吟詠剣詩舞「日本の師表(しひょう)」に取り上げられた詩人ですが、茶山は師の那波魯堂(なわろどう)に『詩に忙しく使われるようではだめだ。胸の中にゆったり寛いだ素晴らしい世界を持つことだ、この世界に遊んで興を催し、憂いを消し、楽しみを取るようにすることが大事だ』と注意されて、初めて作詩に眼が開けたと語ったそうです。

一つの事に集中し、練り、苦しみ抜いた、その先に「楽しい」と公言できる境地がまっているのですね。

 

 

 

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