<付録>
夏季吟道大学必修 とり舟体操のすすめ
夏季大学ととり舟
財団の夏季吟道大学は昭和四十四年に始まり、平成十二年度で三十年目(第二十八期生)を迎えることになり、大学修了者も今年度で三千四百名を超えることになる。
この大学の修了者が終始一貫して経験している課業が、朝の「点呼」と「とり舟体操」である。そのほかの課業は、三十年という歳月の流れに従って、講師陣の顔ぶれとともにに移り変わってきた。
「点呼」は、会場として借用する本栖研修所がモーターボート競走選手の養成訓練施設であるところから、訓練生の日課にあわせて、見様見まねで行なうものであるが、「とり舟体操」は夏季吟道大学参加者独自の日課であり、大学修了者全員が経験した、朝の一時のすがすがしい思い出となっている。
とり舟とは
「とり舟体操」は、和歌を朗詠しながら舟の櫓(ろ)を漕(こ)ぐかたちを繰り返すという運動である。これは、発声練習の点からも健康増進の点からも吟詠家にとって最適であるとして推奨されてきている。
とり舟に朗詠される和歌には次の五首があげられるが、これらは、覚えやすいことや、ラジオ体操のように早朝に行なわれるところから新鮮であること、日本精神を鼓舞(こぶ)するものであることなどから選ばれたものと思われる。富士山を詠(うた)った歌が二首あるが、本栖湖での夏季大学には、うってつけの和歌である。これ以外の和歌もいろいろうたわれて良いのである。
とり舟和歌
しきしまの 大和心を人問はば 朝日に匂う山桜花
さしのぼる 朝日のごとくさわやかに もたまほしきは心なりけり
浅みどり 澄みわたりたる大空の 広きを己が心ともがな
晴れてよし 曇りてもよし富士の山 もとの姿は変らざりけり
何事も 変りはてたる世の中に むかしながらの富士の神山
とり舟の音階
とり舟和歌朗詠の音階は、使用する音域が吟詠の場合、下の「ラ」から、上の「ド」までの十五本を標準とすると、とり舟和歌の場合は、別項の「とり舟和歌朗詠譜」に示すように下の「ラ」から「ラ」までの一オクターブ、すなわち十二本でできているので、三本分低くてすむことになる。
このことから、とり舟朗詠の音階は、六本で吟じても、吟詠の場合に三本が出る人ならば普通に発声できることになる。女性の六本の音域と、男性の三本の音域が、上下で重なるところでドッキングできたわけであり、男女が同じ音階で無理なく合吟できる好例と言える。
六本に限らず、五本(男性は二本の音域に入る。)でも、七本(男性は四本の音域に入る。)でも、合吟するグループに合った音階を選べば良いのである。