漁獲後10日目を経過する段階で、前者のK値35、後者のK値は45に増大する傾向があり、これらの魚類に共通していることはキダイに比べ肉質が軟らかく弱い魚と言える。
K値測定の数値は、測定方法や魚槽、発泡スチロール函に漁獲物を収納した際に氷が一様に魚体を包んでいるか否かにより僅かであるがばらつきがある。
鮮度氷使用の数値は、全体的にやや低に出ており、鮮度保持時間の長さは、鮮度液の希釈濃度を試験対象に合わせると更に延長が可能であり、K値も20以下で漁獲後3週間は保持できるものと思われる。
本鮮度保持試験は、気温、水温が低い冬季に実施したので鮮度を保つ条件が良い。しかし、夏季は鮮度保持には条件が悪くなり従来の普通氷ではK値の上昇を招きやすく、鮮度氷とのK値差も3〜5になるものと予想される。
海ヤカラ1号と言う世界にも類を見ない装置により取水した深度600mと1400mの深層水を調合生成した鮮度液は、魚体等の生体組織への浸透性も大きな特徴である。生物の細胞膜は半透性であり、細胞膜を通して体腔とその周囲との間に水分の交換が行われている。回遊性海水魚の鮪は、海水より体液濃度が薄いので、体内の塩化物を鰓にあるクロライド細胞を通して排出し調節している。これは体腔内を低滲透圧にするための調節である。
方、キダイ等の底棲性海水魚は、海水とほぼ滲透圧が等しいので、海中では体液の濃度を一定に保つために多くのエネルギー消費を必要としない。このように回遊性海水魚と底棲性海水魚では調節作用に違いがあるが、これらの海域中に棲息する魚類の体液は、純水の水ではなく、水分を溶媒としその中に溶質として種々の塩分を溶かし込んだ溶液となっている。回遊性海水魚の体液濃度は、周囲の水の塩分より薄いので滲透圧は海水塩分より低くなり、体液濃度が海水塩分と等しい底棲性海水魚の滲透圧は周囲の海水塩分と等しくなる。試験対象を回遊性海水魚と底棲性海水魚に分けた理由はここにある。ここで用いた滲透圧は、濃い溶液が薄い溶液から、その溶媒を吸う力のことで、問題にしている溶液は水溶液が主であるから、濃い溶液が薄い溶液からその水分を吸う力と考えて良い。
魚類の細胞内の体液と細胞外の体液とは、その原形質膜または細胞膜によって画然と区別されていて、体液濃度は細胞外の体液の方が薄いなど種々の視点から鮮度液の利活用の研究を考えると、鮮度液と魚体の溶液の濃度、魚類細胞組織、溶液の水分子等の問題が存在する。鮪のような大型魚の中心部中骨まで浸透して鮮度保持がなされている現象を確認したが、鮮度液が有する浸透力の解明が待たれるところである。