2-4 植物プランクトン分布の把握(衛星データ解析)
1. はじめに
海水中に含まれる様々な懸濁物質・溶存物質の多くは、海の色、すなわち海中からの可視光線のスペクトルに影響を与える。海面から海中への入射光は、海水中の懸濁物質・溶存物質により散乱・吸収を受け、一部は上向きの光となって海面から空中へ放射される。多くの物質は、それぞれ固有の光学的性質を持っており、それらの物質の性質によって上向光のスペクトルも変化する。この上向光のスペクトルを何波長かで観測し解析することによって海中に含まれる懸濁物質の量や海水の光学的パラメータを推定しようとするのが、海色リモートセンシングの原理である。
特に海色に対し大きな影響を与えるのは、植物プランクトンの多寡である。植物プランクトンの持つ光合成色素(クロロフィルa)は青域の波長帯の光を吸収するので、植物プランクトンの多い水域では海色は緑色を呈することになる。植物プランクトンは海洋の食物連鎖の最下層に位置するので、一般に植物プランクトンの多いところには魚も多いことが期待される。実際、海色は漁業者にとって漁場を設定する上での良い指標であり、人工衛星からの海色観測は極めて有用な漁業情報を与えるものと考えられる。
2. 海色リモートセンシングの原理
上向光のスペクトル特性と光合成色素濃度の関連を示す例として、図2-30に様々なクロロフィル濃度の海域での海面直下の上向光の強度(放射輝度)のスペクトルを示す。図は、北米沿岸での結果であるが、クロロフィル濃度の違いによりスペクトルが大きく変化することが分かる。図の上部の矩形は初期の海色センサCZCSの観測チャンネルに対応しているが、これらの波長帯で上向光の放射輝度(上向放射輝度)を知れば、それから適切な予測式を用いてクロロフィル濃度を推定することができる。
ところで、実際に人工衛星で観測される上向光には、海中からの上向光以外の成分が含まれている。センサで観測される光の放射輝度をLTで表したとき、LTは図2-31に示される様々な成分で成り立っている。Lwは、海中での上向光LUが海面を通り放射されたものである。LGは天空光、すなわち太陽以外の空の部分からくる光の海面反射光であるこれらはいずれも「海面の光学的効果」である。これらの他に、太陽直達光が大気によって散乱され、センサに入射する成分がある。LMはこのうち大気の分子散乱(レーリー散乱)による項であり、LAはエアロゾル粒子の散乱(ミー散乱)による成分を表している。