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2-3 14Cによる深層水の年齢の測定

 

1. はじめに

海洋深層水は、かつては表層に存在していた海水が、大気との接触を絶った後に、さまざまなプロセスを経て、深層に存在する海水である。現在のその地点の表面海水とは起源を異にする場合が多い。すなわち、その地点の表層水から深層水が形成されたわけではない(downwelling海域を除く)。そこで、深層水の由来を知るためにその物理・化学的性質(温度、塩分、栄養塩、クロロフィルなど)を測定することは重要である。すでに、海ヤカラ1号設置海域に関しては、沖縄県海洋深層水開発協同組合(平成11年3月)の報告がある。一方、放射性炭素をトレーサーとして使って、深層水の見かけの年齢を測定することは、深層水の由来を定量的に考察する上で、更に重要である。放射性炭素を使った年代測定をもとにして深層水の由来を考える前に、深層水の形成と深いかかわりのある海洋大循環について述べる。

 

2. 海洋大循環

結論から先に言えば、世界の海洋(大西洋、インド洋、太平洋)の深層水は、ほぼ均質であり、グリーンランド沖およびウェデルン海(南極海)という2つの限られた海域の表面水が沈み込んで、深層流となり、世界を循環することによって形成されたものである(図2-28)。アメリカの海洋物理学者ストンメルは1958年に深層海流を理論的に予測し、図2-28に示す海洋大循環パターンを描いた。彼は、海水の性質(密度など)、地球の自転、海と大陸の地形を考慮し、さらに、回転水槽実験の結果から図2-28を得た。その後、係留系を用いた深層流の直接測定から、北米東海岸から南米にかけて南下する深層流の存在が明らかになり、彼の理論予測はかなり正しいことが実証された。さらに、トリチウム(3H)、放射性炭素(14C)をトレーサーとして使用した海洋観測によってストンメルの予測は、おおよそ正しいことが明らかになった。その後、モデルをさらに単純化したのが、図2-29に示したブロッカー(コロンビア大学)のベルトコンベア循環である(Broekeret al., 1985)。

ブロッカーは1989年に、ストンメルの理論を背景に、放射性同位元素、温度、塩分、溶存酸素、および化学成分の分布をもとに、海洋大循環をわかりやすくするために、非常に単純でエレガントなベルトコンベア型海洋大循環を提案した(図2-29)。図2-29を簡単に説明する。グリーンランド沖で表層から深層へ沈み込んだ海水は大西洋を南下し、南極海で冷却し、沈み込んだ海水とともに、インド洋、太平洋の深層へ流入し、太平洋、インド洋で湧昇して、表層水となった海水が出発点へもどる(図2-29)。

 

 

 

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