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教育医療

Health and Death Education Aug.2000 vol.26 No.8

 

新老人運動発足の使命と意義

―75歳以上の新老人への期待―

 

日本でも諸外国でも、60〜65歳をもって定年とする制度または習慣が定着しています。しかし日本人の平均寿命は毎年更新され、男女を平均とすると80歳、世界一の長寿国となっています。私たちは、定年からの約20年間の生き方も視野に入れて、人生の設計をたてなければなりません。

ところで、人の健康度、体力、能力はまちまちです。65歳以上が老人といっても、おおよそ50%くらいの人は自立して生活しています。人の援助を受けないと生活に支障がでる人は、全体の25%くらいで、残りの25%は非常に健康で、現役の仕事を続けている恵まれた人です。75歳以上になっても、現役で若者に負けない働きをしている方はたくさんいます。

この75歳以上の方で、第3の人生を健やかに生きておられる方たちは、何らかのかたちで社会貢献を望んでいる方も少なくありません。そこで私はこの方たちを新老人(英語ではNew Elder Citizens)と呼ぼうと思います。そしてこの方たちを中心に、新老人運動の波を全国的に広げていきたいと思います。この方たちは、若い人に負けない、いきいきとした生き方をされている実力のある方たちです。

この年齢の方は、一番元気盛んな二十代で終戦を迎えています。終戦前後の10年間というのは、日本にとって大変な時代で、食料や物品が乏しく、交通手段も限られていました。もちろん電化製品もありません。明日をもしれない状況の中で、乏しい食料で重労働を強いられ、身体的にも、精神的にも大変辛い時代でした。そういう方が50年経った今、身体も精神も健全で、しかも老化作用の進行が遅いというのは、豊かな時代に生きる今の若者や中年の人たちにとって、考えさせられることだと思います。

この新老人の方には、まだまだ社会的に大きな使命が残されています。その1つは、自分の戦争体験を次世代へ伝えることです。21世紀に生きる日本の若者は、人類の禍である戦争体験がありません。あの悲惨な戦争という事実を、絵に描いた餅のように過去の歴史として埋もれさせてはならないと思います。

また健康な心と身体から発せられる命の尊さも伝えなくてはいけません。私たちの心は、物質文化の犠牲となり、本当のいのちの意味を考えることが忘れられつつあることを痛感しています。詩人、ワーズワースが歌った詩の一節、質素な生活(simple living)と高い理想(high thinking)に生きることを、次の時代に伝えなければなりません。

またあまりに悪しき習慣がのさばっていることにも胸を痛めます。よい生活習慣をより多くの人や国に伝え、悪しき習慣は排除して、他国に流出させないという高適な精神も植え付けたいと思います。

そして恵まれた資質をもつこの新老人は、人の習慣と老いについて、医学研究のための貴重なデータの提供者としても、ボランティア精神を発揮していただきたいと思います。これからの人のために、人間の老化の研究の生きた資料になってほしいのです。

来る9月30日は、その発足会を(財)ライフプランニングセンターが主催して開催します。若い世代の方たちも、ぜひこの会に興味を示し、参加していただきたいと思います。

この運動に興味のある方は、LPC健康教育サービスセンターまでご連絡ください。追って資料をお送りいたします。

連絡先の電話番号(03)3265-1907

 

(財)LPC理事長 日野原重明

 

 

 

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