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介護している家族の視点で

 

1) 彼らの生活を肯定する

痴呆の高齢者にかかわるときには、痴呆を障害ととらえることが重要です。というのは、介護とは障害をもった人の生活を支える営みであり、病気の側面に必要な治療や看病(看護)とは違うからです。看護は介護を含みますが、それは病気へのかかわりを通してです。心筋梗塞や手術の場面を想定すればわかるように、患者さんの性格や生活を考えるより医療主導な行為になります。

ところが介護は患者さんや家族が主人公です。痴呆のために医療や福祉の窓口に相談に訪れる家族の大半は、2年、3年と苦労した挙げ句に“刀折れ矢尽き”た状態です。それまでのかかわりは彼らの生活状況や人生観、長年にわたる人間関係を映し出しています。

一例でそれをみてみると、アルツハイマー病の母親と2人で暮らしている娘さんは、仕事で朝6時に家を出て夕方6時に帰宅する生活ですが、その間母親がおむつを外したり、排泄物がもれないようにひもで厳重にぐるぐる巻いて出かけるそうです。それを不健康だ、非衛生的だということはできますが、彼女は母親を施設や病院に頼む気はなく、必死で介護しているのです。仕事をやめれば生活が干上がってしまう人に、仕事をやめろとはいえないでしょう。入院や施設入所を勧めるのも大きなお世話というものです。そうまでして仕事しながら自宅で介護に努めてきた彼女の生き方に頭が下がります。私たちにできる援助とは日中2、3回おむつを交換するようなホームヘルプです。まず私たちがしなければいけないのはそれを彼女に提示することです。

 

 

 

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