一つの例を提示してみましょう。
慢性アルコール中毒の患者です。アルコールの飲み過ぎにより二次的な肝硬変が生じ、上部消化管から出血しています。これは食道粘膜下の静脈瘤だということがわかります。「肝硬変→静脈瘤からの出血、良性の前立腺肥大、高血糖、両肺の浸潤」、それ以外にソーシャルプロブレムとして、「失業状態、離婚」とあります。これが解決しなければ慢性のアルコール中毒は解決しないのです。いくら内視鏡で出血を止めても根本的な解決にはなりません。この人にはそれが基本的な問題であるということをケアする人の誰もが心得ていなければならないのです。
もう一つの例です。
リウマチ性の心臓病で、心不全を繰り返し、過去に4回入院しました。ジギタリス中毒にもなり、うつ病のようにもなりました。難聴もありました。この方は以前にうつ病で入院したこともありました。陳旧性の結核もあります。効果の期待される強心利尿薬を投与しても治らないので、この方の生活プロフィールを調べたら、エレベーターのない5階のアパートに住み、子どもが3人いて、一日に何度も食料の買い出しや、子どもを銭湯に連れていくために階段を上り下りしていたのです。それにアルコール中毒の夫がいるということがわかりました。この人は、ソーシャルワーカーの世話で1階に住まいを代えてから、入院しなくなりました。入院を繰り返したり、薬の中毒になったりする原因はこのような生活だったからなのですが、それを知らない医師は心不全をただ薬物療法で解決することしか考えていなかったのです。
このような患者の生活像(profile)や患者の問題がすべて一覧表に書かれたものをチーム医療に携わるすべての職種の人がいつも見ながら、それぞれの専門的な技量で患者のケアを充実させていくべきなのです。