サリンの被害を受けた患者さんはいまだに身体的ばかりでなく、心理的な後遺症にも悩まされています。
私は63年にも及ぶ診療経験から大勢の患者さんをみてきました。私の若い時分には結核で亡くなる患者さんが非常に多かったのです。学生や20代、30代のまだ若い人たちが次々に結核で亡くなっていく姿を目にしました。若い友人の死をみると、まるで若竹を裂くような思いに駆られ、残念な、そして悲しい気持ちに襲われたものでした。
私は昭和12年に京都大学の医学部を卒業しましたが、クラスメートの中で私ほど多くの死亡診断書を書いた医師はいないのではないかと思います。
ライフ・プランニング・センターは7年前にがんの末期で亡くなられる方たちのためのホスピス、ピースハウスを神奈川県につくりましたし、2年前には聖路加国際病院にも緩和ケア病棟をつくりました。みなさんもご存知のとおり、ホスピスや緩和ケア病棟では、残されたいのちを豊かに過ごすことに主眼をおいたケアを行うところですから、死が日常的に見られます。そしてそこで提供される医療は“ターミナル・ケア”といわれます。
私はかねてより“ターミナル・ケア”に代わる何か適切な呼び名はないかと考えてきました。といいますのも、以前はターミナル・ホテルというのが大きな鉄道駅には必ずあったのですが、最近この名前のホテルがなくなってしまいました。それはターミナル・ケアという言葉の普及によって、ターミナルという言葉が敬遠されているせいではないかと思うからです。
外国に行きますと、ターミナルという言葉はみなさんの理解しているものとは違っています。