発達段階の中で、子どものときには自分は何でもできると思っていたのが、自分よりも1歳か2歳年上の友達と遊んでいて喧嘩して負かされてしまったとします。このような体験によって自分は万能ではないのだということが徐々にわかってきます。家ではお父さんと相撲をとるかもしれませんが、お父さんのほうはわざと負けてあげるかもしれません。それがだんだんと発達していくにつれ、現実に直面しなければならなくなります。幼稚園や保育所に行くようになると、家では自分の好きなように遊べたおもちゃも、誰かに取り上げられてしまったりすることも起こります。このようにさまざまの限界を体験して、自己の限界を体験的に自我の中に取り込んでいくのです。
また、大人になってからは人生の危機に直面してその苦痛も体験していきます。とくに子どものときに自己の限界を自我の中に十分に取り込まなかった場合は、大人になっても自己充足的な生き方を継続するようになり、正確な自己認識をもつのが困難です。
危機に直面していく中で自己の限界に気づくことが必要ですが、それは、人は傷つきやすく、壊れやすい存在で、また、何かに依存しなければ生きていけない存在なのだということです。当然、自己充足的なフィーリングとは相反するものです。したがって、人は自己の限界を受容し、人生では苦痛を体験せざるを得ない自分を受け入れていくのが正確な自己認識のプロセスです。
2. 真の自己ニーズ
そうしますと、自分ひとりで何とかできると思っていた個人主義的な、または自己充足的なフィーリングが低下し、自己の限界、もしくは生きる上で体験する苦痛を自分の人生の一部として受け入れていきますと、そこに正しい自己のニーズというものを自覚するようになります。