6. おわりに
本稿では駆け足で、気候変動の仕組みの理解と長期予報精度向上のためには、海を知ることが極めて重要であることを述べてきました。この海を知るために、現在私達は国際的な枠組みの中でARGO計画を推進しようとしています。
ARGO計画は今、まさに船出を迎えました。長い航海になるかもしれませんが、航海の最後には長期予報精度の向上という素晴らしい宝物を獲得することができるよう、皆様方のご理解とご支援を賜われば幸いです。
注釈
注1. 以上の議論では、大気は太陽から放射された熱エネルギーを伝達する可視光線を余り吸収せず、その大部分を先ず地表面が受取ること(大気の透明性)、一方、海洋は比較すれば吸収が大きく、ごく表層でほとんどを吸収すること(海水の不透明性)、したがって大気の熱源は下部にあり、海洋の熱源は上部にあるという性質も重要な背景としてあります。
注2. 本文に示しましたように、数十年スケール変動の原因については、多くの研究者が大気海洋相互作用の結果であろうと考えていますが、外力である太陽活動の長期変動が原因であるとの説もあります。この説に関しては、例えば伊藤(1999)の論考を参照してください。
注3. 放流されたARGOフロートの後始末について述べておくべきでしょう。フロート自体は、本文にも述べましたようにそう大きくはありませんし、浮上や沈降の速度も大変ゆっくりとしたものです。小さな船ならいざ知らず、万が一衝突するようなことがあっても、外洋を航行する船舶にはほとんど影響はないでしょう。ただ、現在のところ、役割の終ったフロートの回収は、実現不可能であると考えられています。用済みのフロートは、確かに海にとってゴミ以外の何者でもないのですが、投資対効果を考えますと、やむをえない措置とみなしています。それでも私達は、環境に優しいフロートの開発も今後行っていかなければなりません。
参考文献
伊藤公紀、1999:地球温暖化問題の新局面。科学、1999年8月号、665-669。
柏原辰吉、1987:北太平洋を中心とした最近の冬季の冷化について。天気、34、777-781。