実際の予測は、数値モデルを用いて行いますが、そのためには太平洋赤道域を監視する観測網の整備が大切です。この整備には1980年代から多大の努力が払われてきました。そして、現在ではENSO観測網と呼ばれるものが整備されています。図6にこれを示します。ボランティア船からのXBT(投下式水温水深計)による表層水温観測、沿岸や島々に配置した水位(潮位)観測、漂流ブイによる海流系の観測、人工衛星による海面水温や海上風・海面高度の観測、そして、表面係留系での観測です。
このうち表面係留系は、米国海洋大気庁の太平洋環境研究所(PMEL)が整備してきたものですが、最近その東側の幾つかを海洋科学技術センター(JAMSTEC)が受け持つことになりました。全部で70基もの表面係留系が、経度にして15度の間隔で、赤道域に整然と配置されています。係留系では、表層の水温や流れ、海上の気象要素が計測され、資料は人工衛星経由で即時的にこれらの機関に送られています。PMELやJAMSTECのウェッブサイトを見ますと、数日前の様子を見ることができます。これらの資料は、海洋や大気の数値モデルに入力されて予報に使われています。
なお、昨年(2000年)夏頃から赤道太平洋西部の暖水が、いつも以上に蓄積されていることが分かっています。海洋側からは少なくとも、次のエルニーニョ発生の準備は整ってきつつあるようです。エルニーニョのトリガー(引き金)は、西風バーストと呼ばれる強い風が、北半球の冬から春にかけて西太平洋上を吹くことであると考えられていますが、これが吹くかどうかが、今年(2001年)エルニーニョが発生するのかどうかのポイントになりそうです。
4. 数十年スケール気候変動
1980年代後半から、前章で述べたエルニーニョの次に長い時間スケールを持つ変動として、10年から数十年の時間スケールを持つ気候変動があることが知られてきました。この章ではこれを見ていきましょう。
4.1. 太平洋振動(PDO)
1980年代後半、北太平洋セクター(北太平洋とその上空の大気)に、10年から数十年スケールの変動が存在していることが指摘されました(柏原、1987)。すなわち、1970年代半ば以降、冬季のアリューシャン低気圧がそれ以前に比べ発達する傾向にあるとの指摘です。これを受け、Nitta and Yamada (1989)は、全球海面水温場や500hPa高度場の解析から、この信号を明瞭に抽出するとともに、熱帯域の海面水温場とのリンクを調べました。これらの研究に端を発し、その後実態とメカニズム解明の努力が精力的に行われてきました。
図7(a)はエルニーニョ時とラニーニャ時の冬季海面水温の差を、また図7(b)は北太平洋で見出された10年から数十年スケール変動の両極時における冬季海面水温の差の分布を示したものです(Tanimoto et al., 1997)。