図4にNino3の海面水温偏差時系列を示します。1860年から1998年までの139年分が示されています。この時系列から、エルニーニョやラニーニャが数年おきに発生しているのが分かります。すなわち、繰り返しますが、エルニーニョやラニーニャは決して希に起こる異常な現象ではないのです。また、最近、1997/98年に起こったエルニーニョは、観測史上最大の規模であったことも分かります。
3.2. エルニーニョとテレコネクション
エルニーニョそのものは、確かに太平洋赤道域に発生する現象ですが、大気に大規模な波動(定在ロスビー波と呼ばれています)を励起することで、全球の気候に大きな影響を与えています。エルニーニョに関連するこの大規模な波動の一つが、PNA (Pacific/North American)テレコネクションパターンです。
テレコネクションとは、遠く離れた地点の天候が同期して変動する現象で、1980年代初めに系統的に調べられました。初めは冬季の500hPa面高度場の変動に対してでしたが、現在は全季節に対してより包括的に調べられています。PNAパターンは、その中でも活動度のもっとも高いテレコネクションパターンの一つです。図5にPNAパターンが励起された冬季の状態を示します。エルニーニョが起こりますと、大気の対流の中心も東部に移ります。対流域では上昇気流が発生し、雲を作り、このとき潜熱(水蒸気が凝結して雨粒になるときに解放される熱)が放出されます。通常は太平洋赤道域西部にある大気に対する熱源が、エルニーニョに伴って東部に移動したと見なすことができるわけです。この熱源に対し、図5のように、すぐ中緯度には高気圧、高緯度に低気圧、北米大陸上に高気圧、さらにフロリダ半島に低気圧性の気圧偏差を作ります。この状態は、アリューシャン低気圧が東偏して強化されることを意味します。このような気圧配置になりますと、アラスカには湿った南風が吹き込みますので、アラスカは暖冬になるわけです。これはエルニーニョに伴う天候の変化の一例ですが、世界中の多くの地点でも有意な天候の変化が起こることが知られています。
日本の冬の天候も、偏西風の流軸が東向きになりますので、季節風の吹き出しが弱くなり、高い確率で暖冬になることが知られています。夏の天候についても、反PJ (anti-Pacific-Japan)パターンと呼ばれるテレコネクションが発生し、通常よりも冷夏になり易いことが知られています。もちろん、日本の天候は、エルニーニョだけで決まっているわけでは有りませんので、必ずそうなるというわけではありませんが、季節予報を考える際にエルニーニョは重要な要素となるものです。
3.3. エルニーニョ観測網
エルニーニョはテレコネクションを通して全球の気候に影響を与えますので、これを的確に予測することが望まれています。